慶應予想問題:マイクロソフトCEOが考えるポスト生成AI時代に求められる価値

高校生の70~80%が当たり前に生成AIを使う時代になっています。

参考①:高校生の生成AI利用率は73.7%、学研が学習と学校生活の調査結果を公表
参考②:中高生の生成AIサービス利用率ランキング!

以前の話題は、生成AIの特徴、できることできないこと、全モデルとの比較だったのが、日常の一部になればその議論は不要になります。iPhoneやスマホが十分広まった今「スマホの特徴・使い方」の情報の価値は高くありません、みんなが持って使って既に知ってるからです。

同様に、生成AIが十分に広がった今、議論の中心は「生成AIで社会はどうかわるか?」に変わっていきます。

大学入試にも当然生成AIの話題が出てきます。

ハルキレーション(生成AIが当然のようにつく嘘のこと)はギリ出題されるかもしれませんが、高度に生成AIが発達し過ぎた今。もはやその議論すら終わってる感じはあります。

というわけでは、今回は予想問題としてマイクロソフトCEOの文章を紹介します。発信されたのは2026年6月14日です。

内容的にも語彙的にも難しいと思いますが、やる気ある受験生はぜひ挑戦して、日々の音読教材にしてください。

人的資本とトークン資本:AI時代に企業が築く価値とは?

*訳は意訳しているかしょもあります。参考までにどうぞ。

I’ve been thinking a lot about the future of the firm in an AI-driven economy.

This transition is different than any previous platform shift. In the past, we used digital systems to enhance human capital. This is the first time we can create a real cognitive loop between people and digital systems. That is a mind-bender, because it changes how we even conceptualize work inside an enterprise.

What is at stake is not some digital tool or system and its use, but how organizations continue to learn, build IP, differentiate, and thrive in a world where AI models can continuously absorb the expertise of humans and organizations and commoditize it.

AIが牽引する経済のなかで、企業の未来について最近よく考えています。

今回の変化は、これまでのどんなプラットフォームの転換とも違います。私たちはこれまで、人間の能力を高めるためにデジタルの仕組みを使ってきました。けれど、人とデジタルの仕組みのあいだに本物の認知のループを生み出せるのは、今回が初めてです。これは頭がクラクラするほどの変化で、企業のなかで「働く/仕事」とは何かという捉え方まで変えてしまいます。

ここで問われているのは、何らかのデジタルツールやシステムをどう使うか、ではありません。AIモデルが人間や組織の専門性を絶え間なく吸い上げ、コモディティ化していく世界で、組織がどうやって学び続け、知的財産(IP)を築き、差別化を図り、繁栄していくのかです。

Every company is going to have to build what I think of as human capital and token capital. Human capital comprises the knowledge, judgment, relationships, ingenuity, and pattern recognition of its people, while token capital is the firm’s AI capability it builds and owns.

Importantly, human capital does not become less valuable as token capital grows. It only becomes more valuable! I believe human agency will be the driver of token capital growth. Humans will set ambitious goals, connect dots across domains, build relationships, and recognize patterns that matter most. Without human direction, you have compute running in circles.

This means the real opportunity is not in picking the best model but instead in building a learning loop on top of models where human capital and token capital compound. You can offload a task, or even a job, but you can never offload your learning. The future of the firm is the ability to compound that learning across people and AI.

どの企業も、私が「人的資本(human capital)」と「トークン資本(token capital)」と呼ぶものを築いていくことになります。人的資本とは、そこで働く人々の知識、判断力、人間関係、創意工夫、そしてパターンを見抜く力のこと。トークン資本とは、企業が自ら築き、自ら所有するAIの能力のことです。

大事なのは、トークン資本が育っても人的資本の価値は下がらない、ということです。むしろ高まります。私は、トークン資本を伸ばす原動力こそが人間の主体性だと考えています。野心的な目標を掲げ、領域を越えて点と点を結び、関係を築き、本当に意味のあるパターンを見抜くのは人間です。人間の方向づけがなければ、計算資源はただ堂々巡りをするだけです。

つまり、本当のチャンスは「どのAIモデルを選ぶか」にあるのではありません。モデルの上に学習のループを築き、人的資本とトークン資本が複利で増えていく仕組みをつくること。そこにこそ機会があります。仕事を、あるいは職務そのものを誰かに委ねることはできても、自分の学びだけは決して手放せません。企業の未来とは、その学びを人とAIをまたいで複利で積み上げていける力のことです。

This requires a new architectural approach where every business is able to build agentic systems that improve over time, while still retaining control over their IP. A company should be able to switch out a “generalist” model without losing the “company veteran” expertise built into their learning system. This is the key “test” of your control and sovereignty in the era ahead.

Companies need to turn their workflows, domain knowledge, and accumulated judgment into AI systems that improve with each use. Private evals should capture whether a model is actually improving against outcomes that matter to the business (not just external benchmarks!). Private reinforcement learning environments should let models grow stronger on real traces from inside the organization. Its knowledge base makes institutional memory queryable and use of tokens more efficient.

This loop becomes the new IP of the firm. I think of it as a hill climbing machine. And unlike most assets, it compounds. Every improved workflow generates better training signal, which accelerates the accumulation of tacit knowledge unique to the firm. The companies that build this early will have an advantage that is hard to replicate, regardless of any new individual model capability.

そのためには、新しい設計の考え方が必要です。どの企業も、自社の知的財産を握ったまま、使うほどに賢くなっていくエージェント型のシステムを構築できなければなりません。「汎用型」のモデルを差し替えても、学習システムのなかに蓄えた「社内のベテラン」の専門性は失わない。これこそが、これからの時代に主導権を握り続けられるかどうかの、決定的な試金石となります。

企業は、自社のワークフローや業務知識、積み上げてきた判断を、使うたびに賢くなるAIシステムへと変えていく必要があります。外部のベンチマークではなく、その企業にとって本当に大切な成果に対して、モデルが実際に伸びているかを、社内独自の評価指標で測定すべきです。社内の生のデータや軌跡を用いて、独自の強化学習環境でモデルを鍛え上げる。知識ベースによって組織の記憶をいつでも検索可能にし、トークンの利用効率を高める。

このループこそが、企業の新しい知的財産になります。私はこれを「山登りマシン」のようなものだと捉えています。そして大半の資産と違って、これは複利で増えていきます。ワークフローがひとつ改善されるたびに、より質の高い学習の信号が生まれ、その企業ならではの暗黙知の蓄積が加速していく。これを早く築いた企業は、新しいAIモデル単体の能力がどれほど上がろうと、簡単には真似できない優位を手にします。

The last thing any of us want is a world where every company across every sector is ceding value to a few models that eat everything they see. If all the value is accrued by only a few models, the political economy will simply not tolerate it. There is no societal permission for an AI future that hollows out entire industries.

Think about what happened in the first phase of globalization where entire industrial economies were hollowed out by outsourcing. The GDP numbers looked fine on the surface, but the displacement was real and the consequences are still being felt. Let us not bring that dynamic into the AI era, with a small number of AI systems capturing all the economic returns, while entire industries find their knowledge commoditized right out from underneath them.

In my view, our priority has to be building a frontier ecosystem, not just a frontier model, so value flows broadly across every company, every industry, and every country. One where every organization can own the learning loop that encodes its institutional knowledge, compounding its human and token capital.

私たちが何より避けたいのは、あらゆる業界のあらゆる企業が、目に入るものすべてを呑み込む一握りのモデルへ価値を明け渡していく世界です。もしすべての価値が少数のモデルに独占されるなら、政治経済はそれをただ許容しないでしょう。あらゆる産業を空洞化させるようなAIの未来を、社会が許容するはずがありません。

グローバリゼーションの第一波で何が起きたかを思い出してみてください。製造業を中心とした経済圏が、アウトソーシングによってまるごと空洞化していきました。GDPの数字は表面上は悪くないように見えても、人々が職を追われた現実はたしかにあり、その余波はいまも続いています。同じ力学をAIの時代に持ち込むのはやめましょう。ごく少数のAIシステムが経済的リターンを独占し、その一方で、いくつもの産業が自らの知識を足元からすくわれ、コモディティ化していく。そんなな事態は、絶対に避けるべきです。

私の考えでは、優先すべきは、単なる最先端の「モデル」を作ることではなく、最先端の「エコシステム」を築くことです。そうすれば価値は、あらゆる企業、あらゆる業界、あらゆる国へと幅広く流れていきます。どの組織も、自らの組織的な知識を組み込んだ学習のループを所有でき、人的資本とトークン資本を複利で増やしていける。そういうエコシステムです。

This is the ethos I’ve grown up with where platforms enable more value on top than is captured inside, and where every company can continuously innovate and build value of its own.

When that happens, companies will create value for themselves and for the economy around them. Employees will see their expertise amplified and their judgment become part of systems that make it replicable and scalable and the benefits accrue to the companies and communities around them.

That is how companies drive value for themselves and the broader economy. And it is the stable equilibrium we should build together.

これは、私がずっと大切にしてきた精神でもあります。プラットフォームは、自らが取り込む価値よりも、その上で生み出される価値を大きくするためのものです。そして、どの企業も絶え間なくノベーションを起こし、自分自身の価値を築いていける場所であるべきです。

それが実現したとき、企業は自分たちのために、そして周囲の経済のために価値を生み出します。働く人々は、自分の専門性が増幅されるのを目にし、自分の判断がシステムの一部となって、再現でき、規模を広げられるものになっていく。その恩恵は、まわりの企業や地域へと広がっていきます。

こうして企業は、自分たちのため、そしてより広い経済のために価値を動かしていきます。これこそ、私たちが力を合わせて築くべき、安定した均衡なのです。

難単語リスト

単語品詞意味
mind-bender頭を混乱させる難問、常識を揺さぶるもの
conceptualize概念化する、捉え方を組み立てる
commoditize差別化のない汎用品(コモディティ)に変える
ingenuity創意工夫、巧みさ
agency主体性、自ら動く力(「代理店」じゃないよ)
agenticエージェント型の、自律的に動く
sovereignty主権、自らを統べる権限
generalist汎用型のもの(ジェネラリストって言うよね)
eval(s)evaluation の略。評価指標・評価の仕組み
benchmark性能を測る基準、ベンチマーク
trace(s)実行の記録・履歴
queryable問い合わせ可能な、検索できる
tacit暗黙の、言葉にされていない
replicate / replicable動/形複製する/複製できる
scalable規模を拡大できる
accrue / accrued積み上がる、帰属する
cede / ceding明け渡す、譲り渡す
dynamic力学、動的な仕組み
ethos精神、信条、流儀
amplify / amplified増幅する(ギターアンプのアンプで覚える)
equilibrium均衡、釣り合いの取れた状態

熟語・慣用句リスト

熟語・表現意味
at stake賭けられている、問われている、危機に瀕している
connect dots across domains領域を越えて点と点を結ぶ、別分野の知をつなぐ
running in circles堂々巡りする、空回りする
offload他に肩代わりさせる、外に委ねる
hill climbing machine山登り(=少しずつ最適解へ近づく)マシン
societal permission社会からの許し、社会的な合意
hollow out中身を空っぽにする、空洞化させる
frontier model / ecosystem最先端のモデル/エコシステム(フロンティア=最前線)
grow up with(価値観などと)ともに育つ、染み付いている
flow broadly広く行き渡る

内容解説

まず最初に、この文章を書いた人がどういう立場かを押さえておきましょう。

普通の評論家ではなく、AIの基盤そのものを作っている会社のえらい人が書いた文章です。ですから、なるほどと頷きながらも、この結論はこの人にとって都合がよくないか、と少し疑いながら読むと面白いです。現代文で言う「筆者の立場をふまえて読む」練習にもなります。

言っている自体は単純です。AIがどんどん賢くなる時代に、会社が自分のものとして手元に残せるのは何か。筆者の答えは「いちばん優秀なAIを買ってくること」ではなく「自分たちだけの学び方」を持つことです。CEO視点ですから、ここでいう自分=個人ではなく会社になります。

なぜAIは今までの道具と違うのか。電卓を思い浮かべてください。あなたがどれだけ電卓を叩いても、電卓は賢くなりません。検索エンジンも同じで、道具はあくまで人間を助けるだけでした。

ところがAIは違います。人が使えば使うほどAI自身も賢くなり、賢くなったAIがまた人を助けます。人とAIがぐるぐると互いを引き上げ合うのです。この「ぐるぐる」が過去のどんな技術にもなかったもので、筆者はこれを出発点に置いています。

そのうえで、会社が持つべき力を二つに分けます。それが人的資本とトークン資本です。

人的資本トークン資本
中身人がもっている力。知識、判断、ひらめき、人間関係、勘会社所有のAI
はたらきどこを目指すか決め、意味のあるものを見抜く←への速さと規模

ここで筆者は、みんなが勘違いしそうなことを先回りして否定します。「AIが賢くなったら、人間なんていらなくなるのでは?」。違う、逆だと。

どこを目指すか決めるのも、関係なさそうな知識どうしを結びつけてひらめくのも、人間にしかできません。AIは方向を与えられて初めて走り出せる道具で、方向を決める人がいなければ、どれだけ高性能でも同じ場所をぐるぐる回るだけです。テストで傍線が引かれるとしたら、このあたりでしょう。

市販参考書と自作ノート

では、具体的に何を自分のものにするのか。身近な受験道具で例えてみましょう。

市販の参考書は誰でも本屋で買えますね。これが「汎用のAIモデル」です。でも、君が自分で解いた問題と、自分がどこで間違えたかを書き溜めた「まちがいノート」(あるいは書き込みまくった問題集)は、世界で君ひとりのものです。

参考書を別の出版社のものに買い替えても、このノートは手元に残ります。会社にとってのこのノートが、自社の仕事のやり方やベテランの勘をAIに覚えさせた「学習の仕組み」です。

筆者が「主権の試金石」とまで言うのは、ここです。来年もっと優秀なAIが出てきて、土台を別会社のものに差し替えても、自分たちが貯めてきた「経験」だけは失わない。そういう状態を保てているか。

保てているなら、その会社は自分の知恵を自分のものとして握り続けられます。握れていないなら、知識ごと大手に明け渡していることになります。

筆者はこの仕組みを「山登り(=少しずつ最適解へ近づく)マシン」と呼びます。ゲームのレベル上げと同じで、一歩よくなるたびに次の改善が速くなり、雪だるま式に差が開いていきます。

コモディティ化はゾルトラーク

ここで一つ、難しい言葉を解いておきます。「コモディティ化」です。これは、みんなができるようになると、それが特別ではなくなり、値段もつかなくなることを指します。

昔は希少だったスキルが、誰でもできるようになって稼げなくなる、あの現象です。漫画「葬送のフリーレン」を読んだことがあれば「ゾルトラーク」がそうですね。

AIが専門家の知恵を片端から吸い上げ、誰にでも提供できるようにしてしまうと、その専門知識は「特別なもの」ではなくなります。筆者が恐れているのは、これです。

グローバル化と同じ過ちを犯すな

文章の後半で、筆者は話を社会全体に広げます。

ここは政治経済や現代社会で習った「産業の空洞化」を思い出すと分かりやすいです。グローバル化の波で、工場が人件費の安い海外に移り、国内の町から仕事が消えていきました。GDPの数字は悪くなくても、現実に職を失った人がいます。同じことをAIで繰り返すな、というのが筆者の警告です。

ですから結論は、「最強のAIを一つ作る」ことではなく、「みんなが自分の学習ループを持てる仕組み(エコシステム)」を目指すべきだ、となります。価値が一点に集まるのではなく、あらゆる会社や国へ広く流れていく世界です。

宿題は生成AIにお任せ

マイクロソフトも生成AI(copilot)を提供しているので、その部分は差し引いて読まなければいけないかもしれません。それでも、「仕事は人に任せられても、学びだけは誰にも肩代わりできな」の部分は信じるに値すると考えています。

AIに考えさせ、書かせ、丸投げした人間はどうなるでしょうか。AIなしで他者と関係は築けるのできるのでしょうか。

メインはビジネスの話ですが、AIに宿題を解かせることもできる中高生への問いかけとしても読める内容でした。

最後に、サティア・ナデラ氏のオススメのAI本を2冊だけ紹介しておきます。

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GOKO編集室
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