慶應経済2024年英語:解答解説と全文和訳 / リモートワークと偽情報

2024年2月13日に行われた、慶應義塾大学経済学部一般選抜の英語入試問題の解答と一部日本語訳を紹介しています。

ご参考までどうぞ。

慶應経済2024年の概観

慶應経済では、例年1~2個のテーマに対して、大問の枠を超えて議論させています。

2024年はリモートワークと偽情報(disinformation)がテーマでした。

大問1~2がリモートワーク、大問3~4が偽情報で議論しています。

出典英文に関しても、例年通り慶應経済オリジナルの英文だと思われます。

慶應経済2024年の合格最低点と受験生平均点

2024年の入試結果は以下の通りです。

数学受験の合格最低点は231点(得点率55%)、地歴選択の合格点最低点が237点(得点率56%)です。

合格最低点だけを見ると、あまり差はありませんでした。

慶應経済 2024年 入試結果より

ただし、慶應経済は足切り制度があります。

該当する科目で"選抜最低点"を取らないと、それ以降の採点がなされません。

上記にある通り、数学受験では英数150点中102点が、地歴受験では英語90点中50点足切りのラインでした。

得点率にすると、、数学受験が64%、地歴受験が56%です。

大問1:リモートワーク革命

  • 題名:リモートワーク革命 / Remote Work Revolution
  • 著者:ノア・ファイス / Noah Fice(2023年)

【問題文冒頭】

Workers are revolting. Amazingly, people across every economic sector are choosing to quit stable jobs in unprecedented numbers, leaving many businesses unable to function. Some workers demand higher salaries, some want to improve their education, and others are simply taking some "me" time.

後述の和訳例を見ればわかりますが、大問1はリモートワークに肯定的な文章です。

...ということは、大問2では否定的な意見がくると予想できます。

大問1:解答

2023年の設問数は7でしたが、2024年は11問へ増えました。

問題解答
13
23
32
42
5,6,75,4,1
問題解答
84
94
103
114

大問1:日本語訳例

英文の大意としては、以下の通りです。

① 労働者が反乱を起こしている。驚くべきことに、あらゆる経済部門で人々が安定した仕事を大量に辞め、多くの企業が機能不全に陥っています。一部の労働者は高賃金を要求し、一部は教育を向上させたいと考えており、その他は単に「自分」の時間を取りたいと考えています。これらの労働者を呼び戻し、彼らの労働条件をどのように改善できるでしょうか?答えは簡単です。リモートワークです。

② リモートワークは、従業員が指定されたオフィスに通勤することなく働く方法です。もちろん、リモートワークは何十年も前から存在していました。それは1970年代にジャック・ニールズによって「テレコミューティング」と初めて呼ばれました。ニールズは、実施の障壁は技術的なものではなく、社会的なものであったと主張しました。それは、従業員を机に縛り付ける頑固な管理者や時代遅れの組織的な計画でした。確かに、最近のリモートワークの普及は通信技術と個人用コンピュータの進歩によって促進されました。しかし皮肉なことに、リモートワーク革命を2020年に引き起こしたのはウイルスでした。

③ COVID-19のパンデミックは、2022年まで多くの国々にロックダウンをもたらしました。2020年度には世界経済が3.3%縮小し、解雇者の急増が伴いました。しかしその翌年、制限がまだ続いている国々においてさえ、世界の成長率は5.8%に達したようです。経済指標は概ね改善し、いくつかの顕著な例外を除いて、リモートワーク政策を迅速に採用した政府や企業は嵐をうまく乗り切りました。

④ リモートワークの恩恵は企業と労働者の両方に感じられ、コスト削減よりも重要な影響があります。従業員にとって、職場に行くことは交通費、仕事着、同僚の誕生日のための贈り物などの隠れた費用を伴います。自宅で働くことで、保育料の節約が可能です。同時に、リモートワークはオフィススペースの必要性を減らし、家賃、光熱費、家具、さらには通勤費用や住宅費用の削減も可能です。

⑤ これらの考えは、ケンブリッジの建設会社ビルデンプのセイモア・ドールヘルスによって最もよく表現されています。「リモートワークは皆にとっての勝利です」とドールヘルスは述べました。パンデミックが発生した際、この会社は本社を閉鎖し、従業員をリモートワーカーにしました。「最初に行ったことは、オフィスでのみ可能だった書類の処理を取り除くことでした」とドールヘルスは説明しました。ビルデンプにとって、すべてをオンライン化し、誰も辞めることなく新しいプロジェクトを進めることができるようになりました。

⑥ リモートワークに対する残存する懸念の一つは、従業員がオフィス環境から離れると生産性が低下するのではないかというものです。これはかつて正当化されていましたが、今ではほとんどの仕事がノートパソコンとインターネット接続さえあれば可能です。リモートワークは、従業員が自分に最適な環境で働くことを可能にします。例えば、自宅、地元のカフェ、山頂、またはビーチなどでストレスなく、移動時間を浪費することなく、労働者はより幸せで生産的です。

⑦ リモートワークは自由度を高め、仕事の満足度を向上させ、どこにでも住めるようにし、仕事と生活のバランスを改善します。リモートワークは職場の政治を減らし、忠誠心を高め、欠席を減らします。これらの利点の中で、あまり注目されていないのが環境への影響です。パンデミックの間、広範な都市封鎖中に、大都市の住民は、車の通りが少なくなった道路、以前よりもきれいな川や湖を見て驚嘆しました。リモートワークがこれらの改善に大きく寄与したわけではありませんが、それでも温室効果ガスとエネルギー消費を減少させる効果があることは明らかです。

⑧ 一部の人々はリモートワーク革命のより広範な影響について心配しています。彼らは、それがオフィスビルのオーナーに悪影響を及ぼし、企業が賃貸契約を破棄し、地元のレストランが廃業する可能性があると主張しています。しかし、サンフランシスコからマンハッタンまで、アメリカの都市は、住宅用および商業用スペースの家賃が低下し、その結果、この貴重な不動産の多様な使用が可能になったという事実を経験しました。確かに、リモートワークはレストラン業界に深刻な影響を及ぼしましたが、それは顧客の食事体験を驚くほど改善し、テイクアウトやデリバリーオプションを増やす圧力がかかっているためです。

⑨ リモートワーク革命は今後も企業運営のあり方を変えていくでしょう。企業がリモートワーク環境での従業員のニーズと期待に応えると、より良い仕事をするために忠実な従業員を抱えることができるようになります。もはや通勤ルートや固定されたオフィススペースに縛られることなく、労働者は自分たちの生活の質を向上させ、それにより自分たちが住む地域社会をより良くすることができるようになるでしょう。

大問2:リモートワークの暗黒面

  • 題名:The Dark Side of Remote Work
  • 著者:I.D. Nighet (2023)

パラグラフ1~2から、大問1と反対の意見であることがわかります。

以下の例を挙げながら、リモートワークがもたらす潜在的な問題点を指摘しています。

  • 生産性の低下: 短期的な生産性向上は、労働時間の増加によるものであり、質の高い仕事やイノベーションを犠牲にする可能性がある。
  • コミュニケーション不足: リモートワークは、従業員間のコミュニケーションを阻害し、新しいアイデアの創出を妨げる。
  • 精神的な健康問題: 孤立感や不安など、精神的な健康問題を引き起こす可能性がある。
  • 都市と地方への影響: リモートワークは、都市の衰退と地方の人口増加を引き起こし、新たな社会問題を生み出す可能性がある。

【問題文冒頭】

Remote work is a danger, not only to us individually, but to the very fabric of modern life. How we work is central to how we interact with others and function as a society. In the past, hunter gatherers lived in small tribes and moved over great distances to search for food.

大問2:解答

問題解答
123
131
143
151
162
問題解答
174
183
194
201

大問2:日本語訳例

英文の大意としては、以下の通りです。

「リモートワークの闇」

① リモートワークは、私たち個人だけでなく、現代社会の基盤そのものに対する危険をもたらしている。私たちの働き方は、他者との交流や社会の一員としての機能に深く関わっている。かつて、狩猟採集民は小規模な集団で生活し、食料を求めて長距離を移動していた。農民は大家族や社会ネットワークを形成し、播種期や収穫期には協力し合っていた。近年の産業革命は人々を密集した都市中心部に集め、ニューヨーク、ロンドン、パリ、東京といった文化的に豊かな都市の成長をもたらした。もし、私たちがオフィスワークをこれらの都市から奪い去ったら、これらの都市に何が残るだろうか?

② COVID-19パンデミック初期、リモートワークは多くの人にとって現実となり、最初は非常に魅力的に思われた。企業も従業員も、経済を動かせるという点でこれを歓迎した。従業員の生産性は急上昇し、13%から最大56%の増加が報告された。従業員は、より多くの運動をし、新しい趣味を見つけ、家族と過ごす時間を増やしたと報告している。【13.多くの人々がこれらの数字を額面通りに受け取った。】しかし、これはすべて幻想だったのだろうか?

③ 今日では、その幻想に騙されている人はほとんどいない。従業員の生産性向上を夢見ていた企業は、その効果が過大評価されていたことに気づいている。多くの企業はもはや、従業員が自己申告したデータ​​を信用していない。従業員にとっても、幻滅が広がっている。つまり、現代において、企業はリモートワークを快く許可しているが、その理由は、仕事と私生活の境界線が曖昧になるからだ。在宅勤務の従業員は、子どもをサッカーの練習に連れて行ったり、宿題を手伝ったりしている最中でも、会議電話に応じることが求められる。生産性の向上に関して【14.~する限り】、単に労働時間が長くなった結果に過ぎない。

④リモートワークでより多くの労働時間を確保するために、企業は仕事の質【15.や従業員の創造性】への長期的な影響を見落としている。その原因は二つある。一つ目は、監督の強化である。企業は、リモートワーカーのタスク完了時間やメールへの返信時間などを単純に評価するため、従業員はより賢く働くのではなく、単に速く働くようになった。二つ目は、在宅勤務が長期的にイノベーションを阻害するということである。従業員はもはや、同僚と気軽に会話したり、所属部門外の他者とアイデアを交換したりすることができなくなった。突発的な出会いは、新しいアイデアの創出に不可欠である。そして最終的に、それは質の高い労働者の成長と教育、そして健全な企業文化の発展の鍵となる。

⑤ 2021年の調査では、70%の人がリモートワークに対して肯定的な見解を示し、健康、対人関係、経済面でのメリットを主張した。しかし、同じ調査で、24%の人が家庭での人間関係にストレスを感じ、54%の人がワークライフバランスに悪影響を与えると認識した。驚くべきことに、10.4%がリモートワークのメリットとして精神的な健康状態の改善を挙げた一方で、5人に1人が新たな精神的な健康問題を抱えていると報告した。これは、同僚や上司との交流不足による孤立感や不安が原因である。最も懸念されるのは、若い従業員や一人暮らしの人に限ると、この精神的な健康問題の報告率がほぼ2倍の【16. 39%】になったことである。

⑥ リモートワークの悪影響は、いたるところで見られる。一つには、都市に住む必要がなくなったことで、企業が取引を中止し、美術館、交響楽団、その他の文化施設が来館者を減らした。これにより、都市政府や住民グループは、これらの施設に資金を提供するか、それとも閉鎖せざるを得ない状況に追い込まれている。他方で、過去2年間でリモートワーカーが田舎町や村に殺到した。これはコミュニティにとって真の災害となった。なぜなら、この新しい住民の予想外の波がコミュニティ全体に深刻な問題を引き起こしているからだ。学校、道路、病院、警察などの公共サービスがその影響を受けている。特に、リモートワーカーを雇用する企業の本社が異なる都市や州に置かれている場合、これらの問題はさらに深刻化する【17】。

⑦ リモートワークが環境に良いという考え方は幻想だ。例えば、100人の従業員を収容するオフィスを1つ運営するエネルギーコストは、100人の自宅オフィスを運営するコストの【18.ほんの一部にしかすぎない】。従業員は、通勤時間が1時間短縮されたことでCO₂排出量が削減されたと自慢する。しかし、彼らは遠隔地に移住することで、スーパーマーケットやホームセンターまで1時間のドライブに変わっただけだ。さらに、人々は広大な農場や森林地帯に新しい家を建てており、これらの景観を損なうだけでなく、食料やその他の資源を生産するための土地の利用も妨げている。

⑧ 誰かが介入する必要がある。それは、消費者としての行動や政府による政策を通じて介入する個人の力、あるいは政府が公的政策を通じて介入する力である。放置しておけば、企業も従業員も、事態を放任するだろう。メタ社を例に挙げよう。同社は、人々が簡単に連絡を取り合い、イベントを計画し、志同道合の人々と出会えるようにすることで、世界を変革した企業としてスタートした。しかし今日、彼らは人々がすべての仕事や娯楽活動を仮想世界で行うような世界を作り上げようとしている。これが本当に私たちが望む未来だろうか?本当に、私たちの文化施設、社会関係、そして精神的な健康を犠牲にしてまで、このような未来を望むのだろうか?

語彙

1~3段落

  • hunter gatherers: 狩猟採集民
  • Industrial Revolution: 産業革命
  • dense urban centers: 密集した都市中心部
  • skyrocketed: 急上昇した
  • illusion: 幻想
  • disillusionment: 幻滅

4~6段落

  • stifle: 抑える、抑制する
  • spontaneous: 自発的な、突発的な
  • innovation: 革新
  • work-life balance: ワークライフバランス
  • mental health: 精神的な健康

7~8段落

  • compounded: 悪化させる、複雑にする
  • fantasy: 幻想、空想
  • boast: 自慢する
  • farmstead: 農場
  • intervention: 介入
  • virtual: 仮想の
慶應専門塾GOKOについて

大問3:フェイクニュースとメディアリテラシー / Q アノンから地球平面説

  • 題名:メディアリテラシー: 偽情報に対するワクチンか? / Media Literacy: A Vaccine Against Disinformation?
  • 著者:フランク・D・ベイト / Frank D. Bayt (2023)

2024年の慶應経済の英文で、最も気合の入った文章だと思いました。

選択肢も迷うものが多く、何度も復習して、このレベルを解けるように頑張ってください。

テーマはフェイクニュースとメディアリテラリーと、同年(2024年)法学部の英語と丸被りでした。

>>慶應法学部2024年英語:解答解説と全文和訳 / フェイクニュース千里を走る

また、2020年のSFC総合政策の小論文テーマでは、まさにトランプ大統領を引用した課題文が出されるなど、慶應では頻出のテーマです。

【問題文冒頭】

The availability of information online and the spread of social media have radically changed our exposure to disinformation. "Fake news", a phrase few had heard of before the 2016 US presidential election, has now become a catchphrase for politicians everywhere.

ちなみに、著者名のFrank D. Baytは、

フランク・D・ベイト➡︎ フランクディベート ➡︎ flank debate

のモジリでしょう。

Qアノンとトランプ大統領

本文で出てくるQアノン(QAnon)は、アメリカで発生した一連の陰謀論を信じるグループやその信念体系を指します。

Qアノンの主な主張として、アメリカ政府内に「ディープステート」(影の政府)と呼ばれる秘密組織が存在し、この組織が世界を裏で操っていると信じています。この組織には政治家、企業家、ハリウッドの著名人などが含まれ、彼らは人身売買や児童虐待、悪魔崇拝などの犯罪に関与しているとされます。

そして、ドナルド・トランプ前大統領がこの「ディープステート」と戦っている英雄であると信じています。彼らは、トランプが秘密裏に計画を進め、最終的に「ディープステート」のメンバーを一斉逮捕し、正義を実現するという「グレート・アウェイクニング」(Great Awakening)を待ち望んでいます。

Qアノンの陰謀論は、単なる誤情報にとどまらず、暴力的な行動を引き起こす危険性があるとして、FBIなどの法執行機関からも脅威として認識されています。

現在では、主要なソーシャルメディアプラットフォームがQアノン関連のアカウントやコンテンツを削除するなどの対策を講じていますが、その影響は依然として続いています。

興味深いことは、これは米国に限った話ではなく、世界中で同様の動きが見られることです。もちろん、日本にも同様の勢力があります。

そう考えると、現生人類=ホモ・サピエンスの性質の一つと呼べるのかもしれません。

大問3:解答

問題解答
212
224
233
245
252
262
問題解答
274
284
293
302
313
322
333

大問3:日本語訳例

英文の大意としては、以下の通りです。

①オンラインの情報へのアクセスとソーシャルメディアの普及により、我々は誤情報を浴びる機会が劇的に変化しました。「フェイクニュース」というフレーズは、2016年の米国大統領選挙以前はほとんど知られていませんでしたが、今では世界中の政治家たちの流行語となっています。誤情報はさまざまな形で現れますが、その本質は、作成者が意図的に偽であることを知りながら情報を拡散するという有害な意図によって識別できます

②確かに、限られた量の誤情報は常に存在していました。古代ギリシャやローマの時代でも、政治家たちは有利になることを期待して虚偽の噂を流していました。さらに、商業の名の下に拡散された虚偽は、中世以来、民間セクターの大部分を特徴付けてきました。マスコミが登場する以前は、貧しい農村コミュニティ内で有害なゴシップが簡単に広まり、さまざまな不正義を引き起こしていました。しかし、初期の時代の虚偽の量は、技術によって制限されていました。

③間違いなく、インターネットの登場はゲームチェンジャーでした。今日、我々はこれまで以上に、真実ではないことを信じたり、考えずにアイデアを受け入れたりする傾向があります。デジタルで見ていたり聞いたりするものの多くは、認知バイアスを生み出すコンピュータアルゴリズムによって提供されています。多様なアイデアに触れる代わりに、私たちはますますエコーチェンバー(反響室)の中に生きており、そこでは人々が似たような、より極端な意見を含むコンテンツにさらされています。実際、オンラインの誤情報ビデオは視聴者を増やすにつれて、しばしばウイルスのように広がります。これは特別な正当性を与える傾向があり、反論するのが難しいです。米国では、Qアノンカルトによって広められた虚偽の持続性は、この傾向の証拠です。Qアノンの陰謀論は、信者の多くがそれを放棄しているにもかかわらず、、依然としてメディアで正当な大衆意見として取り上げられています。

④誤情報の結果は決して過小評価されるべきではありません。国家規模では、政治的な対立は単に虚偽の増加だけでなく、暴力につながっています。よりローカルなレベルでは、虚偽の噂が暴動の原因であることが示されています。さらに、政治家による意図的な疑念の拡散は、人々の民主主義システムへの信頼を弱め始めています。例えば、選挙が盗まれたという虚偽の主張は、統治システムそのものに対する公衆の信頼を侵食する傾向があります。政治的な無関心は現代の病ですが、問題の源は多くの場合、有権者たちの絶望感であり、これは公式な見解に対する信頼の欠如によって引き起こされます。

⑤皮肉にも、公平で偏りのない討論を促進するという考え自体が、誤情報の拡散に貢献しています。現代のメディアは懐疑主義を好み、議論を促進することを愛していますが、それによって、科学が圧倒的に反対しているにもかかわらず、確立されたコンセンサスに反する意見が広がることを許しています。地球は平らであると主張する人々が、彼らの「主張」を議論するための不当な機会を得たり、ワクチン懐疑論者が証拠がほとんどないにもかかわらずメディアで取り上げられたりします。教育機関でも、積極的に討論を促進することは、すべての情報源が同様に疑わしいと結論付ける生徒がいる場合に、意図しない結果をもたらす可能性があります。彼は、不必要な議論が理性的な議論を弱体化させると考えています。

⑥この状況にどのように対応すべきでしょうか?一部の人々は、インターネット上で表示できるものとできないものを制御し、例えば学校教科書のコンテンツを管理して、世界の一つの受け入れ可能なバージョンを提示することにより、大量の検閲を提唱しています。しかし、このアプローチの問題は、政府が真実と決めたものを独占すると、結局は自分たちの大規模な偽情報プロジェクトを生み出してしまうことです。したがって、全体主義社会の人々は懐疑的になり、真か偽かに関わらず、公式の物語をフィクションとみなすことがよくあります。したがって、問題は依然として残っています。

⑦ メディア改革は実行可能な解決策のように見えますが、達成するのは難しいです。ソーシャルメディア企業を例に挙げましょう。各国政府によるこれらの企業を制御しようとする試みは、せいぜいまちまちな結果しか出ていません。これらの企業は協力的ではありますが、情報のバランスをとるという考えに対して本質的な抵抗を持っていることが多いため、進展は限られています。それは部分的には、自社のサイトをどう管理するかという技術的な問題に起因しており、また、歪んだ情報であっても共有することが収益源となる競争的なビジネスモデルにも一因があります。

⑧ むしろ、悲しいことですが、ウイルス感染と同じように、偽情報が問題であるという事実と共に生きていかなければならないかもしれません。その場合、できるだけ多くの子供や大人を「ワクチン接種」する必要があります。つまり、彼らに虚偽の情報に感染しないための知的なツールを与えるということです。それには、批判的に考えることができる教育を受けた市民が必要です。つまり、出会う情報について質問し、分析し、判断することができる市民です。大人向けのメディアリテラシーの授業、特にソーシャルメディアの性質を考察する授業が必要であり、特別な場合には、国家政府でさえその導入を確実にするための措置を講じるべきです。

⑨ メディアリテラシーは、すでに多くの国の議題に上がっていますが、今ほど必要になったことはありません。偽情報の拡散に対処することは複雑で、当然ながら簡単に解決できる問題ではありません。しかし、最終的に何を信じるかについての決定権を、政治家やビジネスリーダーではなく、教育を受けた市民の手中に委ねることは、私たちが持つ誤情報に対する最善の防御策かもしれません。

語彙

1~3段落

  • disinformation: 誤情報
  • cognitive bias: 認知バイアス
  • echo chamber: エコーチェンバー
  • viral: バイラル

4~6段落

  • disinformation: 誤情報
  • skepticism: 懐疑主義
  • consensus: コンセンサス
  • vaccine skeptics: ワクチン懐疑論者
  • censorship: 検閲
  • totalitarian societies: 全体主義社会

7~9段落

  • viral infections: ウイルス感染
  • media literacy: メディアリテラシー
  • critically: 批判的に
  • question: 疑問視する
  • analyze: 分析する
  • exceptional circumstances: 例外的な状況

大問4:F. Bayt氏への反論

  • 題名:F. Bayt氏への反論
  • 著者:伊藤陽子

2023年に引き続き、日本語の文章を読み、英語の質問に答える問題です。

【問題文】

次の日本語の文章は問題 ⅢのF.Bayt氏の論考に対し、伊藤陽子氏がJournal of Media and Politics(2023)の編集者に宛てた投稿の和訳である。

大問4:解答

問題解答
a3
b2
c1
d4

大問4:選択肢の日本語訳例

英文の大意としては、以下の通りです。

a. ベイトの記事を読んで、段落③で伊藤のフレーズ「全く根拠がない」が最も指している可能性が高いのは次のどれか?正しい番号を解答用紙Bの(a)のボックスに記入しなさい。

  1. ベイトには全体的な要点がまったく欠けている。
  2. ベイトは事実に裏付けられていない虚偽に集中している。
  3. ベイトは自分の主張を支持するための研究を引用していない。
  4. ベイトは関係のないデータを使用する傾向がある。

b. 伊藤の手紙の中で、ベイトに誤って帰されている見解は次のどれか?正しい番号を解答用紙Bの(b)のボックスに記入しなさい。

  1. 家族や友人が偽情報に対抗する上で積極的な役割を果たすことができる。
  2. 偽情報に対抗するためには政府の介入が継続的に必要である。
  3. メディアリテラシーの授業が問題解決に寄与する可能性がある。
  4. 自己検閲は問題の解決策として妥当である。

c. ベイトが支持し、伊藤が異議を唱えている考えは次のどれか?正しい番号を解答用紙Bの(c)のボックスに記入しなさい。

  1. 大人は批判的思考の訓練を必要としているという考え。
  2. 偽情報は腐敗した権力者たちの道具であるという考え。
  3. 分断された社会は搾取されやすいという考え。
  4. 政府が重要な役割を果たすという考え。

d. 両著者が最も同意しそうな意見は次のどれか?正しい番号を解答用紙Bの(d)のボックスに記入しなさい。

  1. 検閲は偽情報の拡散を減らすのに役立つかもしれない。
  2. 偽情報は、農村社会が標準だった過去の方が深刻だった。
  3. メディアでの議論が増えると偽情報が減る。
  4. コミュニティ内の政治的対立が偽情報の拡散を助長する。

語彙

  • disinformation: 誤情報
  • Ascribed to:帰されている(ここでは、ベイトの意見として述べられていることを指す)
  • self-censorship: 自己検閲
  • fragmented societies: 断片化された社会
  • exploitation: 搾取

大問5:自由英作文 / 解答例付き

設問と解答例のみ掲載いたします。

高尚な文章を書く必要はなく、使える表現を駆使して、無理のない文章を作成してください。

【問題文】

以下の設問(A),(B)の中から一つ選んで、問題文I~Ⅳを基にして、自分の意見を
解答用紙BのV欄に英語で論じなさい。注意点をよく読んでから書くこと。

(A) Should the Japanese government encourage companies and schools
to adopt remote work practices? Why or why not?

(B) Should the Japanese government take action to control the spread of disinformation? Why or why not?

参考までに、本文を引用しない(実際は引用が必要))解答例を掲載しておきます。

(A)の解答例

I think the Japanese government should encourage companies and schools to adopt remote work practices. There are a few reasons for this.

First, remote work can help to reduce the spread of diseases, like the flu or a new virus. If people are working from home, they are less likely to come into contact with others and get sick.

Second, remote work can help to reduce traffic congestion. If fewer people are commuting to work, there will be less traffic on the roads. This can help to reduce air pollution and make our cities more pleasant places to live.

Finally, remote work can give people more flexibility in their work schedules. This can help them to balance their work and personal lives better.

Of course, there are some challenges to remote work, such as the difficulty of collaborating with colleagues and the potential for feeling isolated. However, I believe that the benefits of remote work outweigh the drawbacks.

日本語訳

日本の政府は、企業や学校にリモートワークを導入することを奨励すべきだと思います。その理由はいくつかあります。

まず、リモートワークはインフルエンザや新しいウイルスなどの病気の拡散を防ぐのに役立ちます。人々が自宅で働けば、他の人々と接触して病気になる可能性が低くなります。

次に、リモートワークは交通渋滞を軽減するのに役立ちます。通勤する人が少なくなれば、道路の交通量が減ります。これにより、大気汚染を減らし、都市をより住みやすい場所にすることができます。

最後に、リモートワークは人々に仕事の時間に関する柔軟性を与えることができます。これにより、仕事と私生活のバランスをより良くすることができます。

もちろん、同僚とのコラボレーションが難しいことや、孤立感を感じることなど、リモートワークにはいくつかの課題があります。しかし、リモートワークのメリットはデメリットを上回ると信じています。

(B)解答例

I think the Japanese government should take action to control the spread of disinformation. Disinformation can have serious consequences, such as causing social unrest or influencing elections.

One way the government could do this is by promoting media literacy education in schools. This would teach people how to identify fake news and other forms of disinformation. The government could also work with social media companies to develop policies that make it harder to spread false information online.

However, it is important to balance the need to control disinformation with the need to protect freedom of speech. The government should be careful not to censor information that is simply unpopular or controversial.

日本語訳

日本の政府は誤情報の拡散を抑制するために何らかの措置を取るべきだと思います。誤情報は、社会不安を引き起こしたり、選挙に影響を与えたりするなど、深刻な結果をもたらす可能性があります。

政府がこれを行う一つの方法は、学校でメディアリテラシー教育を推進することです。これにより、人々はフェイクニュースやその他の形の誤情報を識別する方法を学ぶことができます。政府はまた、ソーシャルメディア企業と協力して、オンラインで虚偽情報を拡散することをより難しくするポリシーを開発することもできます。

しかし、誤情報を制御する必要性と、言論の自由を守る必要性のバランスをとることが重要です。政府は、単に人気がないか議論の余地がある情報を検閲しないように注意する必要があります。

\ お知らせ /

この記事を書いた慶應専門塾GOKOでは、一緒に慶應義塾大学を目指す生徒を募集をしています。

完全マンツーマンで密度の濃い授業を、オンラインで全国の受験生へお届けしております。

慶應を目指す受験生(とその保護者の方)は、以下よりお問い合わせください。

  • 全国どこからでもオンラインで受講可
  • 完全個別のマンツーマンコース
  • 初回面談、体験授業無料

慶應専門塾GOKO
塾長 吉中

初回ご面談は私が担当させていただきます。

以下のお問い合わせページよりご連絡ください!

投稿者

GOKO編集室
GOKO編集室
GOKOでは慶應義塾大学に進学したい受験生のために、役立つ情報の発信をおこなっています。こんな記事が読みたいなど、希望がありましたらお問合せページよりご連絡ください。