慶應商学部2026年英語:解答速報と全文和訳 / 系統学とファミリーツリー

2026年2月14日に行われた、慶應義塾大学商学部・一般選抜の英語入試問題を解説します。

慶應商2026平均点と合格最低点

慶應商2026配点受験者平均点合格最低点(400点満点)
英語200116.9
数学10067.7A方式:279(得点率 69.8%)
地理歴史10066.73
論文テスト10062.17B方式:300(得点率 75.0%)

数学の平均点が伸びた結果、A方式の合格最低点が底上げされました。

B方式は平均点は大きな変化はありませんでしたが、合格最低点が19点も伸びました。商学部B方式は表面倍率15倍で、ますます狭き門になってしまいました。

なお、2025年はこちら。

慶應商2025配点受験者平均点合格最低点(400点満点)
英語200110.88
数学10045.84A方式:246(得点率 61.5%
地理歴史10064.52
論文テスト10057.22B方式:281(得点率 70.3%

非常に読みにくい英文だったと思います。

こうした概念系の内容はそもそも抽象的で読みにくいですが、さらにハンブルク大学教授が書いたゴリゴリの学術論文だったことも読みにくさを加速させています。

著者はマルクス・フリードリヒ氏。ドイツが産んだ経済の2大巨頭、カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスを足して2で割った名前なのも、個人的ポイント高かったです。

50字要約

系譜学は、特権的知から広く開かれた社会的実践へと変化し、世代を超えて更新され続ける知識生産活動である。

系譜学とは何か?

一言で言うと「家族や血縁の歴史を、資料に基づいて調べ、記録し、受け継いでいく社会的活動」です。

もっとわかりやすく言うと、たとえば、夏休みの自由研究で「自分の家系図」を作るとします。

  • 祖父母に話を聞く
  • 古い戸籍や寺院の記録を調べる
  • 先祖の職業や移住の歴史を整理する

このように、証拠を探し、つながりを形にし、記録として残す作業が系譜学です。

単なる「家族調べ」との違いは、系譜学の学問的・社会的性格です。

記憶だけでは不十分で、写本など物的証拠が必要。誰が、何の目的で、どのように記録したかには、その時代の政治・社会構造が反映される。一つの成果が次世代の出発点になる。

こうした部分が学問としての質を担保している様です。個人レベルの家系図作りも流行っているみたいで、参考動画を置いておきます。

大問1:解答解説

問題解答解説
(1)3shared。直後で系譜学が曖昧な包括的用語(vague umbrella term)であり、多様な慣習を繋いでいると述べられているため、「共通の」特徴を見つけるのは困難であるという文。
(2)2Nonetheless。直前で写本の存在は「歴史的必然ではない」としつつ、直後で「多くの文化に存在してきた」と述べているため、逆接・譲歩の論理関係になる。
(3)2Quite the contrary。「人々が家族のことを知っていると仮定するのは間違いだ」という前文の内容を、「実際には知識は限られている」と強い反論を強調する流れ。
(4)2once。系譜学の成果が固定されたものではなく、「かつては最終成果だったものが、次のプロジェクトの出発点になる」という動的な更新プロセスを説明。時間を表す副詞 once
(5)4第1段落。かつては「エリートの特権」だったが、現在は「あらゆる階層の人々の趣味」になった。つまり誰でも行えるものになった。
(6)2第3段落。系譜学的な写本は、多くの文化において「極めて顕著な特徴(highly prominent feature)」であり、広く存在した(wide presence)という記述と一致。
(7)2一致しないものを選ぶ。本文では連続的な活動やグローバルな視点とあるが、選択肢2は「断絶された(disconnected)」「局所的な(local)」としており、内容が矛盾する。
(8)1第5段落。系譜学は「生きているテキスト」であり、分析結果が記録され、新しい世代へと受け継がれながら更新されていくという記述がある。
(9)3第4段落。専門機関による蓄積だけでなく、「個人の主体性(individual initiatives)」に依存する場合があるという記述から、個人の役割が重要であることが示されている。
(10)1文章全体のテーマ。系譜学を単一の定義ではなく、時代を超え(trans-epochal)、文化を横断する(cross-cultural)多様な探索として捉える内容に最も合致する。

大問1:全文和訳

① 系譜学(Genealogy)とは、本質的には「親族」とみなされる歴史上の人物や現存する個人に関する広範な知識を作り出す社会的実践であり、21世紀の今日、かつてないほど一般的で広まっています。デジタル技術の誕生とDNA検査は、系譜学に新たな視点を与えました。長い間、エリート層の特権と見なされてきましたが、今ではあらゆる階層の人々に愛される娯楽となっています。学者の中には、系譜学はより民主的になったと言う者さえいます。彼らは、新しい技術が血統、家系、親族、そして家族に関する現代的な理解にどのように関連しているかを調査しています。こうした最近の議論は重要かもしれませんが、系譜学的実践の深い歴史や歴史的多様性を評価するには至らないことが多いのです。確かに、すべての文明が独自の系譜学的実践を発展させたわけではありませんが、それにもかかわらず、多くの文明がそうしました。系譜学という分野には、千年に及ぶ豊かな歴史があるのです。

② 系譜学の歴史の莫大な豊かさを、特に時代を超えたグローバルな視点から見た場合、[共通の]特徴を特定することは困難です。実際、系譜学が最終的に獲得したさまざまな用途や形態を考慮すると、この用語自体は、異なる、そしてしばしば区別される実践や文化的背景を結びつける、いくぶん曖昧な包括的用語のようにさえ見えます。しかし、異なる時代や地域の多くの系譜学的文化を有意義な対話へと導く一つの方法は、それらが作り出してきた物質的産物を注意深く調査することにあります。

③ 時空を超えた系譜学的活動の、最も研究されている物質的な現れの一つは、写本です。写本、つまり手書きの資料は、関連情報を保存・提示するために他のメディアが併用されている場合であっても、多くの、おそらくはほとんどの系譜学的文化において、極めて顕著な特徴です。系譜学的な写本は、物質的生産が社会の中に組み込まれているという性質を浮き彫りにします。系譜学的写本がどのような外見をしているか、どのような写本が保存されているか、どのような種類の写本が誰によって公開されているか。これらすべては、複雑な形ではありますが、絶えず変化する家族や親族構造の性質と強く結びついており、それがまた、より広範な社会的、文化的、政治的な現実を反映しているのです。系譜学的写本の存在自体、歴史的な必然ではありません。[それにもかかわらず]、系譜学と系譜学的な手書き資料は、世界中の多くの異なる文化に存在してきました。

④ 系譜学の定義の話に戻ると、系譜学とは不明確な用語です。多くの意味を区別することができます。一つの例として、系譜学が知的なプロジェクトや専門知識の領域、あるいは独自の学問分野を指す場合があります。また、系譜学は誰もが行い、追求できるものでもあります。それは、日常的な知識を超えた、特定の家族の過去および現在の構成員を組織的かつ自覚的に祝うものと定義される、社会的実践あるいは共同の取り組みです。しかし、人々が自分の家族のことを単に知っていると仮定するのは間違いでしょう。[それどころか]、日常的で習慣的な家族の知識は、しばしば限定的なものです。系譜学について学ぶという行為自体が複雑で困難であり、しばしば広範な情報検索を必要とします。そしてそれがまた、研究に関連した興味深い一連の写本を生み出してきました。多くの資料が、系譜学的知識の生産が非常に複雑で、しばしば多大な不満を伴い、決して終わりのない性質のものであることを証明しています。系譜学的活動は、専門家(系譜学者)や専用の社会機関によって高度に専門的な方法で行われることもあれば、先祖に関する知識へのこうした集中的な配慮が個人の主体性に依存する場合もあります。プロセスあるいは活動として、系譜学は、時には多世代の参加者を巻き込む社会的実践として分析されなければなりません。

⑤ 系譜学を一連の継続的な活動として理解することは、前述の系譜学的写本や碑文など、今なお存在する物質的な痕跡にどのようにアプローチすべきかについて、重要な示唆を与えてくれます。実践としての系譜学は時空を超えて広がるため、予備的な結果を書き留めるという中間段階にしばしば依存してきました。これらは保存され、プロセスの他の参加者、特に新世代の系譜学者へと伝えられる可能性があります。系譜学を、関連情報の調査、公開、更新、改善、修正、再公開という無数の循環を含む継続的なプロセスとして捉えることは、学者に対して、写本の生産と利用を継続的かつ動的な活動として理解することを求めています。どのような系譜学的写本も、単独で研究されるべきではありません。むしろ、社会的プロセスとしての系譜学は、絶えず改訂され更新される一連の写本実践に依存しているのです。

⑤ したがって、系譜学的写本はおそらく、その生涯を通じて機能を変化させます。それらは「生きている」テキストであり、常に再解釈、更新、改善、そして拡張を必要としているのです。[かつては]系譜学プロジェクトの最終成果であったものが、将来のプロジェクトの出発点となり、その結果、改訂や他の形態の利用の対象となることもあるのです。

大問1:差がつく重要単語&熟語一覧

標準レベルの単語帳に掲載されている語彙は極力除きつつ、慶應志望なら覚えておきたい差がつく語彙を掲載しています。

第1段落

  • genealogy:系譜学、家系図の作成
  • walks of life:職業、社会階層(2025総合政策大問1でも登場、every walks of lifeで「あらゆる階層の人々」)
  • lineage:血統、家系
  • descent:家系、血統、降下
  • kinship:親族関係、血縁
  • fall short in...:~において不足している、~に達しない
  • distinctive:独特の、特有の

第2段落

  • trans-epochal:時代を超越した、時代をまたぐ(epochalが画期的、エポックが画期的な)
  • umbrella term:包括的用語、総称(アンブレラは傘)
  • manifestation:現れ、明示、表明
  • manuscript:写本、手書き原稿
  • prominent:顕著な、卓越した
  • socially embedded:社会に深く組み込まれた

第3段落

  • distinguish:~を区別する、分類する
  • scholarship:学問、学術研究(奨学金以外の意味に注意)
  • joint endeavor:共同の取り組み、共同作業
  • self-conscious:自覚的な、意識的な
  • casual:何気ない、形式ばらない(カジュアルな服装、のカジュアル)
  • quite the contrary:それどころか、全く逆で
  • attest to...:~を証明する、~の証拠となる
  • execute:~を実行する、遂行する
  • dedicated:専用の、献身的な

第4段落

  • implication:示唆、影響、含み(implyの名詞形)
  • inscription:碑文、刻まれた文字
  • preliminary:予備的な、準備段階の
  • transmit:~を伝える、伝達する
  • inquiry:調査、探究
  • in isolation:孤立して、単独で

設問・選択肢

  • exclusive:排他的な、独占的な
  • intangible:無形の、触れることのできない
  • cultural heritage:文化遺産
  • disclose:~を開示する、明らかにする
  • duplicate:~を複製する、二重にする
  • explicit:明白な、明示的な
  • endeavor:努力、試み

  • 題名:考えることは贅沢品になりつつある / Thinking Is Becoming a Luxury Good
  • 著者:メアリー・ハリントン / Mary Harrington
  • 単語数:500語程度

反動的フェミニストの提唱で知られる、英国の作家メアリー・ハリントン 私がニューヨークタイムズに寄稿した記事から出題。

「所属する社会階層が、健康だけではなく、認知能力にも格差を生むよ」といった内容。

日常レベルで考えれば、日々ショート動画漬けの人と本を読む人だと、それは差がつくよね。といった感じで内容的には飲み込みやすい話でした。

慶應を目指す志高い諸君も、SNSではなく、本を読む知的階級をぜひ目指してください。

大問2:解答解説

問題解答解説
(11)3gulf(湾大きな隔たり):健康な生活を送れる資源がある層と、肥満に脆弱な層との間に生じた「大きな溝」を指す。
(12)3innate(先天的な):第3段落冒頭。"not (12) but learned"(生まれつきではなく習得されるもの)という対比構造から、learnedの対義語である3を選択。才能と環境、遺伝と教育など、よくある対立構造。
(13)4level(~を等しくする):熟語 "level the playing field"(競争条件を平等にする)。レベルの名詞は知ってると思うので、動詞の意味を知っているか問う設問。
(14)1第2段落。ジャンクフードが肥満と貧困を相関させたように、デジタルメディアも「知の健康」を損ない、格差を生んでいるという共通点を指摘している。
(15)3第3段落最後"sharpening our capacity for concentration" の言い換えが選択肢3. have a stronger ability to focus。
(16)4第4段落"invites intense cognitive 'bites'"の言い換えが選択肢4.people jump to it without thinking much。中毒性を最大化したコンテンツは、思慮深い推論を介さず直感的に飛びつかせる性質を持つ。
(17)3Many parents in poverty cannot afford...:第6〜7段落。自由主義者が説く「個人の選択」が、貧困ゆえに「スマホに子守をさせるしかない」という構造的限界を見落としている。「スマホを使わせない環境」を維持するために年3.4万ドル(約500万円)かかる第9段落の具体例とも取れる。
(18)3low-income families and high-income families:第8段落。具体的な年収額(3.5万ドル未満 vs 10万ドル超)を挙げて説明されている「経済格差」そのものを指す。経済力によって、子供が古典を読めるか動画中毒になるかが切り分けられる。
(19)2Most books will not be read by the public...:第10段落。脱識字(文字は読めるが内容が理解できない)状態になった大多数の一般市民は、本を読まなくなり、知的能力は一部のエリートの独占物となる。その結果、本を読む習慣が消えるだろうと推論する。

大問2:全文和訳

大意は以下の通りです。

なお、日本語のマインドは精神≒心っぽい印象がありますが、英語のmindは知性や脳の活動に主に使われます。英語のハートとマインドはニュアンスが異なるので、その点は注意してください。

① テクノロジーが、私たちの集中力だけでなく、読解力や思考力までも変えつつあるという考えが広まっている。しかし、誰も心の準備ができていない議論は、これがいかにしてまた別の形の不平等を生み出しているかという点である。

② これを、ジャンクフードの消費パターンと比較して考えてみてほしい。超加工食品のスナック菓子がより手軽に入手できるようになり、巧妙に依存症を引き起こすようになるにつれ、先進社会では、健康的な生活を維持するための社会的・経済的資源を持つ人々と、食文化が引き起こす肥満に対してより脆弱な人々との間に、(11) 大きな隔たり(gulf) が生じている。これは階級分断を反映している。先進社会において、肥満は貧困と強い相関関係を持つようになった。私は、これと同じことが「ポスト・リテラシー(脱識字化)」の波にも続くだろうと危惧している。

長文読解能力は(12) 先天的なもの(innate) ではなく習得されるものであり、時には多大な努力の末にようやく身につくものである。読解の専門家であるマリアン・ウルフ博士が示してきたように、長文を読み解く「エキスパート・リーディング」の能力を獲得し完成させることは、文字通り脳を変化させる。語彙を増やし、脳の活動を分析的な方向へとシフトさせ、集中力と思索の深さを研ぎ澄ますことで、私たちの脳を変えてくれるのである。

④ デジタル読解によって形成される思考の習慣は、それとは大きく異なる。生産性の専門家であるカル・ニューポートが2016年の著書「Deep Work」で示しているように、デジタル環境は注意散漫になるよう設計されており、様々なシステムが通知やその他の要求によって私たちの注意力を奪い合っている。ソーシャルメディアのプラットフォームは依存症を引き起こすように意図されており、膨大な量の素材は、ニュアンスや思慮深い推論よりも、(16) 中毒性 を最大化するよう調整された強烈な認知的一口サイズのコンテンツへと人々を誘う。その結果として生じるコンテンツ消費のパターンは、――そもそもデジタルデバイスを使って読みさえすればの話だが――私たちの知的活動を、飛ばし読み、パターン認識、そしてテキストからテキストへと飛び移ることに慣れさせてしまう。

⑤ ますます、読むという行為自体がほとんど必要ないように思えてくる。TikTokやYouTubeショートのようなプラットフォームは、魅力的な短尺動画を無限に提供している。これらは、本物のニュース、フェイクニュース、その他の意図的に誤解を招く情報、そしてAIが生成した大量の荒唐無稽なコンテンツと組み合わさっている。その結果、メディア環境は、認知におけるジャンクフード売り場に相当するもののように見えてくる。

(17) 古典的自由主義者なら、「確かに。しかし、ジャンクフードと同様に、健康的な選択をするかどうかは個人の自由だ」と反論するかもしれない。しかし、この考えが考慮に入れていないのは、デジタルメディアの認知的害悪は、ジャンクフードの過剰摂取による健康への悪影響と同様に、社会・経済的階層の底辺においてより顕著に現れるという点である。

⑦ 私たちはすでにその兆候を目にしている。ウルフ博士が指摘するように、読解力と貧困は長らく相関関係にあった。現在、低所得家庭の子供たちは、高所得家庭の子供たちよりも、毎日スクリーンの前で過ごす時間が長い。2019年の調査では、世帯年収3万5,000ドル未満の米国の10代は、年収10万ドルを超える世帯の同世代に比べ、1日あたり約2時間も多くスクリーンタイムを費やしていた。さらに研究によれば、娯楽目的で1日2時間以上のスクリーンタイムにさらされている子供は、そうでない子供に比べて、処理速度、注意力、言語能力、そして実行機能が低下している。

⑧ 率直に言えば、健康的な認知的選択をすることは難しい。より手軽で、没頭させられ、抗いがたい娯楽の形態に満ちた文化の中で、長文を読み解く能力はやがてエリートだけの領域になってしまうかもしれない。

既に、エリート層や宗教団体、保守派の人々は、テクノロジー利用に対する自主的な制限を受け入れ始めている。2019年から2023年の間に、アメリカでは250校以上の新たなクラシカル・スクール(古典教育重視の学校)が開校した。その多くはキリスト教系で、長文の古典的名著を通じたリテラシーを中心に据えた理念を持っている。こうした動きは保守派だけではない。ビル・ゲイツのようなテクノロジー界の著名人も、自身の子供のスクリーン利用を抑制することについて公に語っている。また、ベビーシッターを雇う際に「スマホ使用禁止」の契約への署名を求める者もいれば、デバイスが禁止、あるいは厳格に制限されている私立学校に子供を通わせる者もいる。ここにおける(18)階級の切り口 はカミソリのように鋭い。クラシカル・スクールの大部分は有料の教育機関である。ある私立小学校では、子供をデバイスの過剰使用から守るために、年間3万4,000ドル(約500万円以上)もの費用がかかるのである。

カリフォルニア州を含む米国の多くの州では、全生徒のスマートフォン利用を制限しており、理論上はこれが競争条件を (13) 平坦にする(level) はずである。しかし、少人数学級の私立校と大規模な公立校において、ましてや家庭内において、こうした規則が同じだけの決意を持って施行されると想定するのは楽観的すぎる。シリコンバレー以外でも、「オフラインになる」という自己啓発の実践として、ソーシャルメディアやビデオゲームなどのデジタルエンターテインメントを一定期間制限する人々もいる。認知的フィットネスに対するこうした厳格なアプローチは、依然として富裕層に集中している。しかし、スマートフォンがない世界を一度も知らずに大人になる新しい世代が増えるにつれ、社会・経済的階層に従って文化的分断がより鮮明になることが予想される。一方では、比較的少数の人々が、集中力と長文の推論能力を保持し、意図的に磨き上げていくだろう。他方で、より多くの一般市民は (19) ポスト・リテラシー(脱識字) の状態になるだろう。

大問1:差がつく重要単語&熟語一覧

第1段落

  • reason:推論する、論理的に考える

第2段落

  • ultra-processed:超加工された(食品など)
  • ingeniously:巧妙に、巧みに
  • vulnerable to...:~に対して脆弱な、~の影響を受けやすい
  • post-literacy:脱識字、ポスト・リテラシー(読み書き能力の衰退)

第3段落

  • long-form literacy:長文読解能力、高度な読解力
  • tremendous:多大な、凄まじい
  • mind-altering:精神(脳の構造)を変化させる

第4段落

  • distraction:注意を散らすもの、気を散らすこと
  • compete for...:~を奪い合う、~のために競う
  • sheer:全くの、純然たる
  • cognitive:認知的な、認識の
  • nuance:微妙な差異、ニュアンス
  • hop from text to text:次から次へとテキストを飛び移る

第5段落

  • absurd:不条理な、ばかげた
  • junk food aisle:ジャンクフード売り場(aisleは通路、飛行機の"通路側席"にも使われる)

第6段落

  • fail to take into account...:~を考慮に入れていない
  • pronounced:際立った、はっきりした
  • hierarchy:階層、ヒエラルキー

第7段落

  • peer:同世代の人、仲間
  • be exposed to...:~にさらされる、~に触れる
  • processing speed:処理速度
  • executive function:実行機能(脳の管理能力)

第8段落

  • bluntly:率直に言えば、ぶっきらぼうに
  • engrossing:夢中にさせる、没頭させる
  • domain:領域、分野
  • elite:エリート、選ばれた人々

第9段落

  • self-imposed:自らに課した、自主的な
  • great books:古典的名著
  • notables:著名人、名士
  • curb:~を抑制する、抑える
  • razor-sharp:カミソリのように鋭い

第10段落

  • level the playing field:競争条件を平等にする、土俵を同じにする
  • let alone...:~は言うまでもなく、まして~(~ない)
  • self-improvement:自己啓発、自己改善
  • going off-line:オフラインになること、接続を断つこと
  • starkly:鮮明に、厳然と
  • general population:一般大衆

選択肢

  • gulf:大きな隔たり、湾
  • attain:~を獲得する、達成する
  • cultivate:~を養う、育む、耕す
  • well-being:健康、幸福な状態
  • discount:~を軽視する、無視する(「割引」以外の意味に注意)
  • be inclined to...:~する傾向がある
  • be prone to...:~しがちである
  • self-disciplined:自己規律のある、自制心の強い
  • self-indulgent:自分に甘い、自堕落な
  • infer:~を推論する、察する

  • 題名:Trump's attack on the American mind / Trump’s Vicious Attack on the American Mind 他
  • 著者:ロバート・ライシュ / Robert Reich
  • 単語数:850語程度

ビル・クリントン政権で労働長官を務めた経済学者・政治評論家のロバート・ライヒ(Robert Reich)氏のエッセイをベースに出題。

福沢諭吉の「学問のすすめ」を導入に用いながら、現代の権威主義がどのように教育、歴史、科学、メディア、芸術を攻撃し、民主主義を脅かすのかを5つの特徴で論じた文です。

ハッキリ言いましょう、UCバークレー教授によるトランプ政府批判です。積極的に情報発信をしており、最も再生数が多いのが「トランプ大統領の10の最悪なこと」(と言いながら全然10個じゃないというオチ)です。

第2段落にあるように、ハーバード大学への補助金停止を契機に書いた内容でしょう。

慶應商学部では2023年の大問3にも同著者から出題されています。3年と短い期間で再登場ですので、併せて読んで慣れておいてください。

慶應商学部2023年英語:全問解答と内容解説 / 移民受け入れ成功例としてのアメリカ

2023年2月14日に行われた、慶應義塾大学商学部の2023年入試の英語は、「移民問題」「フードロス」「インフレ」といった現代社会の重要テーマが並び、背景知識の有無で差が…

大問3:解答解説

問題解答解説
(20)2In reality(実際には、現実には):第1段落。就職や社会的地位といった「形式的な目的」を提示した上で、「実際にはそれ以上に重要な理由がある」と述べている。
(21)2One might ask(人はこう尋ねるかもしれない):第6段落。科学の解体を論じる文脈。直後の反語表現を受け、読者や世間に向けて「人はこう問いかけるかもしれない」と問題提起を行う定型表現。
(22)1It is time to(~すべき時だ):第9段落(最終段落)。「民主主義は教育に依存している」と結論を受け、文頭で「今こそ教育を真剣に捉えるべき時である」と述べている。
(23)4「1984」のモットー「無知は力なり」の直後にある、"a public without education is easier to divide and conquer"(教育のない大衆の方が分割して支配しやすい)の言い換え。知識を奪うことで支配を容易にする。
(24)1小説内のスローガンである「過去を支配する者が未来を支配する」の言い換え。独裁者が歴史(奴隷制や大虐殺)を隠蔽し、過去の変革の歴史を消し去ることで、将来の人々の行動や社会変革を完全にコントロールする目的を指摘している。
(25)4教育を「党の道具」にすることの言い換え。自分で考える力を育てる代わりに、異論(dissent)を抑圧して組織や集団へ同調・順応(conform to the group)させる権威主義の教育方針を表す。
(26)2第6段落。本文の "Why are authoritarians afraid of science? Because science acknowledges objective facts."(なぜ科学を恐れるのか? 客観的事実を認めるからだ)がそのまま根拠。「黒を白と言い切る」ことを求める権力にとって、客観的事実は都合が悪いため危険視される。
(27)1第7段落。"A free press exists to question authority and help the public question it as well"(自由な報道は権力に疑問を呈し、大衆がそうするのを助けるためにある)をまとめた選択肢。
(28)3第8段落(NOT問題)。著者は芸術を「思考を刺激し、社会において独立したものであるべき」と高く評価している。選択肢3は、独裁者が芸術をコントロールする際の「政治利用の手法」そのものであり、著者の考えと一致しない。
(29)3単なる就職のためではなく、歴史、教育、科学、メディア、芸術に対する権威主義の攻撃から「批判的思考(Critical thinking)」を守り、民主主義を維持するために教育がいかに不可欠であるかという、文章全体の包括的なテーマ。

途中に登場する「1984」はいわゆるディストピア小説の名著で、慶應の過去問含め、さまざまな英文で引用されています。

大問3:全文和訳

大意は以下の通りです。

私たちはなぜ学問を修めるべきなのだろうか。自伝や「学問のすすめ」をはじめとする福沢諭吉の数々の名著は、はるか昔にこの問いに答えようとしていた。しかし、それらの著作が提起した問題意識は、今日の社会においてもそっくりそのまま当てはまる。学ぶのは、単に良い職に就くため、あるいは社会的地位を手に入れるためなのだろうか。実際には、現代を生きる市民が深く熟考すべき、さらに重要な歴史的・哲学的理由が存在する。

その答えを見つけ出すために、いくつかの興味深い事例を検証してみるといい。たとえば、半世紀以上にわたって子どもたちが文字を読み、数を数えるのを助けてきたテレビ番組「セサミストリート」を、なぜ放映中止に追い込もうとする者がいるのだろうか。なぜハーバード大学のような著名な学問の拠点を、予算を削ってまで破壊しようとする人々がいるのだろうか。なぜ移民を抑制し、そうすることで世界で最も優秀な科学者たちが自国にやってくるのを阻むのだろうか。その理由は、いつの時代も暴政(専制政治)が真っ先に破壊しようとするのが、教育であり、その結果として人々の「精神」だからである。

歴史を振り返れば、暴君たちは自らにとって最も危険な敵が「教育を受けた大衆」であることを常に理解していた。奴隷主は奴隷が文字を学ぶことを禁じた。第三帝国のナチスは本を焼いた。カンボジアのクメール・ルージュ政権は音楽を禁止した。過去の権威主義者たちと同じように、今日のいわゆる「ポピュリスト」や「人民の政府」を名乗る者たちは、私たちが何をするかだけでなく、私たちが「どのように、何を考えるか」までをも支配したがる。彼らは、ジョージ・オーウェルの傑作小説「1984」に登場するスローガンの一つ、「無知は力なり」を信奉しているのだ。彼らは、教育を受けていない大衆ほど、分断して統治することが容易であると知っている。現代の権威主義者が人々の精神と民主主義に対して仕掛ける攻撃には、5つの特徴がある。

第一に、歴史を書き換えることだ。「1984」の主人公は、いわゆる「真理省」で働いており、そこで文字通り歴史の改ざんを強いられている。政府の指導者であるビッグ・ブラザーが、「過去を支配する者が未来を支配する」ということを知っているからだ。それが架空の未来社会を描いたファンタジーであるというだけでも十分に恐ろしいが、現実の世界におけるそれはさらに恐ろしい。現実の独裁者たちは、学校に奴隷制を正当化させ、先住民族の虐殺を隠蔽し、人権運動の歴史を抹消させている。権威主義者たちは、もし「我が国は一度も間違ったことがない」と国民に信じ込ませることができれば、「我が支配者は常に正しい」と信じ込ませることができると知っているのだ。かつて勇敢な活動家たちが変革のためにいかに戦ったかを大衆に忘れさせることができれば、将来、人々が変革を求める動きを未然に阻止することができるのである。

第二に、教育を空洞化させることだ。多くの国で教育制度の独立性が弱められる中、学校や大学への予算削減を通じて、政権は学生の入学選考、教員の採用、そして教育内容にまで影響力を行使するようになる。一人の大学教授として、私は教育がいかに若者の精神に力を与えるかを知っている。市民が民主主義について批判的に議論(熟議)できなければ、機能する民主主義など成り立たない。だからこそ、権威主義者たちは教育を政治宣伝(プロパガンダ)へと置き換えるのだ。彼らは機能する民主主義など求めていない。学生に自分の頭で考えることを教える代わりに、暴君たちは異論を抑圧しようとする。20世紀の超国家主義者たちが、自国の教育システムを「党の道具」へと変貌させたのは、まさにこのためである。

第三に、科学を解体することだ。大学の研究助成金を凍結し、NGOを攻撃することによって、政権は医療や科学の研究基盤を揺るがす。こうした予算削減は、私たちの健康を危険にさらすものだ。また、政府の方針に異を唱える国際的な科学者を拘束し、国外追放する国があまりにも多すぎる。科学研究の分野で世界をリードする原動力となり得る、地球規模の知的人的資源を国家から奪い去る。これほど残酷な方法が他にあるだろうか。私たちは、この知性と技術の循環を自由に継続させなければならない。人はこう尋ねるかもしれない。そもそも医療研究や疾病予防のどこに政治的な要素があるというのか。あるいは、科学研究全般のどこにそんなものがあるのか、と。なぜ権威主義者は科学を恐れるのか。それは、科学が「客観的事実」を認めるからである。暴君たちは、支配者は事実よりも強力であると言い張り、自分たちの都合の良いように「事実」を統制したがる。ジョージ・オーウェルが書いたように、「それは、党の規律が要求するときには、黒を白と言い切る忠誠心あふれる自発性を意味する」のである。

第四に、メディアを抑圧することだ。暴君たちは、報道内容を理由に報道機関を攻撃し、放送免許の取り消しをちらつかせ、公共放送の予算を削ることで、ニュースの供給源を沈黙させようとする。「そんなものはフェイクニュースだ」という言葉が、あまりにも多くの口から、あまりにも頻繁に繰り返されている。市民がどのような情報にアクセスできるか(あるいはできないか)を統制することが、彼らの目的の一つだ。自由な報道が存在するのは、権力に対して疑問を投げかけ、大衆が同じように疑問を持てるよう手助けするためである。しかし、権威主義者たちは、自分たちが疑問を持たれることなど断じて許さない。暴君たちは、国民が知り得る情報に対する国家の権力を強固なものにしたいのだ。

最後に、芸術を攻撃することだ。芸術は、私たちを刺激し、私たちの思考に挑戦し、私たちが自己の殻を破って外の世界を見るのを助けるために存在する。芸術は、教育された社会における重要かつ独立した一部であり、だからこそ歴史的に権威主義者たちの攻撃対象となってきた。したがって、このような指導者たちが国立美術館の展示内容を指図し、自分の盲従者を芸能センターの館長に任命したとしても何ら不思議ではない。芸術を制限することは、言論や表現の自由を制限することに他ならない。それは、創造性を駆使して異議を唱えようとする者の口を封じるために、権威主義者が用いる極めて重大な手段なのである。

高等教育を志す私たちは、精神を麻痺させるのではなく、精神を高め、視野を広げ、若者を啓発し、彼らを可能性に満ちた世界へと連れ出すことを選択した。今こそ教育を真剣に捉えるべき時である。なぜなら、民主主義の命運は、まさに教育にかかっているのだから。

今回と似た内容はUCバークレーの卒業スピーチでも述べています。

なお、最後の「芸術」に関しては、スミソニアン博物館などへの介入について批判していると思われます。

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