慶應文学部2025年英語:解答速報と全文和訳 / 戦争はなぜ起こるのか?

2025年2月15日に行われた、慶應義塾大学文学部一般選抜の英語の入試問題の解答速報と全文和訳を掲載しています。

慶應文学部2025:試験概要

2024年から大きな変動はなく、2025年も引き続き自由英作文が出題されました。

慶應文学部2025:なぜ戦争は起こるのか?

  • 題名:なぜ戦争は起こるのか? / Why War?
  • 著者:リチャード・オーヴェリー / Richard Overy (2024)
  • 単語数:2,000語程度

「なぜ戦争は人類の歴史においてこれほどまでに一貫して存在してきたのだろうか?」と問う、イギリスの歴史学者リチャード・オーヴェリーの著書から出題。

かつて2007年小論文で「文学は戦争の対義語なり得るか?」という出題がありましたが、久しぶりに戦争がメインテーマの年でした。

出題箇所の冒頭にもありますが、リチャード・オーヴェリーはこの問いに取り組んだ最初の学者ではありません。

1931年、国際連盟の要請により、アルバート・アインシュタインはジークムント・フロイトに、「人類を戦争の脅威から救い出す道はあるのか」を考察する短い作品の共同執筆を依頼しました。

その翌年、『ひとはなぜ戦争をするのか』として出版された著書では、フロイトが「死の欲動」によって救済は不可能であるという結論を示しました。

破壊への心理的衝動は動物界に普遍的に存在する。

その後の1930年代から1940年代にかけての世界大戦は、この悲惨な結論の十分な証拠であるかのように思われます。

かつて日本史の勉強をしながら「なぜ日本は領土拡大を目指したのか?その先の何を目指したのか?」と考えた受験時代でしたが、その疑問に応えてくれる様な内容でした。

慶應文学部2024:解答例

A

1:多くの理論は、単一の首尾一貫した答えを生み出すのではなく、雑多な考えの寄せ集めを生み出す。

2:A(eluded)

3:エ (otherwise)

4:戦争は私たちの遺伝子に組み込まれている本能的行為ではなく、遺伝子の残すための生存戦略の一環として行われるということ。(58字)

5:a (agenda)

6:現在や将来の国際秩序から戦争のない世界が生まれると考える根拠はほとんどない。

7:戦争の原因は普遍的であり、生物的・文化的要因が戦争を正当化する心理や制度を形成してきたため、完全な消滅は困難である。さらに、資源、安全保障、権力、信念の対立といった戦争の動機が現代にも根強く残るため、未来にも戦争は続くと考えられるから。

B

100語未満解答例

The greatest threat to peace in the modern world is the conflict between nations over resources and power. Countries compete for energy, water, and land, which can lead to war. To create a more peaceful world, nations should focus on diplomacy and cooperation. They should share resources fairly and respect each other's cultures. Education is also important because it helps people understand different perspectives and avoid conflict. If countries work together and communicate well, peace can be maintained. (78 words)

100語以上解答例

The biggest threat to peace in the modern world is the spread of nationalism and extremism. These ideas create division, hatred, and violence, often influenced by false information and propaganda. Economic inequality and social unfairness make these problems worse, leading to more conflict.

To make the world more peaceful, education and communication are important. Learning to think critically and understanding different cultures can help stop extreme ideas and bring people together. It is also necessary to reduce economic gaps and social unfairness. Countries should cooperate and work through international organizations to prevent and solve conflicts peacefully. In the end, a peaceful world can be built if people work together to spread kindness, respect, and understanding while rejecting division and hatred. (120 words)

空欄(2)

解説: eludeは「巧みに避ける」とういう意味がありますが、捉えようとしてもすり抜ける様子から「理解が難しい」という意味もあります。です。ここでは「多くの理論が存在するために、単一の答えを出すことが難しい」という文脈なので、eludedが適切です。

設問3

  • (ア) Additionally (加えて)
  • (イ) Consequently (その結果)
  • (ウ) However (しかしながら)
  • (エ) Otherwise (そうでなければ)

この文では、「戦争が正常である」という事実と対比して、「もしそうでなければ、人間は戦争以外の選択をしただろう」という内容が述べられています。したがって、(エ) Otherwise がもっとも適切です。

B.英作文の和訳

100語未満解答例

現代世界における平和への最大の脅威は、資源と権力をめぐる国家間の対立です。国々はエネルギー、水、土地をめぐって競争し、それが戦争につながることがあります。より平和な世界を築くために、国家は外交と協力に注力すべきです。資源を公平に分け合い、互いの文化を尊重することが重要です。また、教育も大切であり、人々が異なる視点を理解し、対立を避けるのに役立ちます。国々が協力し、円滑にコミュニケーションを取れば、平和は維持できます。

100語以上解答例

現代世界における平和に対する最大の脅威は、おそらくナショナリズムと過激主義の蔓延でしょう。これらの思想は、しばしば誤った情報やプロパガンダの影響を受けて、分断、憎悪、暴力を生み出します。経済的不平等と社会的不公正はこれらの問題をさらに悪化させ、より多くの紛争を引き起こします。

世界をより平和にするためには、教育とコミュニケーションが重要です。批判的に考えることを学び、異なる文化を理解することは、過激な思想を阻止し、人々を結びつけるのに役立ちます。経済格差と社会的不公正を減らすことも必要です。国々は協力し、国際機関を通じて、紛争を平和的に予防し解決すべきです。最終的には、人々が協力して、分断と憎悪を拒絶しながら、優しさ、尊重、理解を広めることができれば、平和な世界を築くことができます。

慶應文学部2024:全文和訳

慶應文学部は例年英文1つでのため、段落ごとに解説を加えます。

第1段落:なぜ戦争の原因を説明できないのか

トピックを明確にしてしている第1段落らしい段落です。

戦争の原因を説明できないわけではない、ただ、時と場所によってそれぞれの理由がある。

といった趣旨になります。

Theories abound on the causes of war. This reality has tempted the view that warfare cannot be satisfactorily explained because the many theories produce a messy cocktail of ideas rather than the single, coherent answer that Einstein hoped to get from Freud. ~~~

戦争の原因に関する理論は数多く存在する。この現状は、戦争を十分に説明することはできないという見解を招いてきた。なぜなら、多くの理論は、アインシュタインがフロイトに期待したような単一の首尾一貫した答えを生み出すのではなく、雑多な考えの寄せ集めを生み出すからである。

過去一世紀にわたって戦争の原因を説明しようとしてきた主要な人文科学の専門家の間には、確かに意見の一致はない。当然の結論として、人類の過去を通じて戦争が存続してきたことを説明する単一の、あるいは単純な原因はない。

戦争に対する単一原因の説明を構築しようとする試みは無益である。それは戦争を説明できないという意味ではなく、集団的暴力が戦争として定義されてきたように、時代と場所によって複数の説明が存在するということである。例えば、旧石器時代の致命的な小競り合いや待ち伏せから、今世紀の熱核兵器による壊滅の脅威まで、戦争は時代とともに大きく変化してきた。

設問にもなっているcocktailを辞書で引く(文学部は辞書持ち込み可)と、いわゆるお酒の「カクテル」だけではなく「混合物」の意味があることがわかる。そのため「雑多な寄せ集め」の様な訳出にする。

語彙

  • abound: (動) 豊富に存在する、満ち溢れる。
  • messy: (形) 散らかった、混乱した、雑然とした。
  • monocausal: (形) 単一原因の
  • futile: (形) 無益な、無駄な
  • skirmish: (名) 小競り合い、小規模な衝突。
  • ambush: (名) 待ち伏せ。
  • ambushes in the Paleolithic : 旧石器時代の待ち伏せ
  • thermonuclear: (形) 熱核の
  • obliteration: (名) 壊滅、消滅。

第2段落:平和が正常は間違い

長い段落です。短い長文(?)問題1問分ぐらいの分量があるので、段落として何が言いたいのか見失わない様に注意しましょう。

誇張してまとめると、

「歴史的に考えると、人間にとって平和の方が異常」

といった感じになります。

The absence of consensus is clear in the attempt by scholars across the disciplines to demonstrate that warfare is an evolutionary aberration, largely absent for pre-state humans and in the historic period no more than an interruption of peace.~~~~

戦争は進化の逸脱であり、国家以前の人類にはほとんど存在せず、特定の時代においても平和の中断に過ぎないことを示そうとする試みにおいて、学問分野を超えた学者たちの意見が一致しないのは明らかである。

このようなアプローチは、平和こそが「正常」であり、戦争が人間の「正常」ではないことを証明する必要性に駆られている。

マーガレット・ミードの「戦争は文化的発明であり、人間が十分に望めば『発明されなかったこと』にできる」という主張は、過去100年ほどの間に、世界史上最大かつ最も犠牲の大きい二つの戦争を経験した時代でさえ、戦争をより受け入れがたく、あるいは起こりにくくするための制度や規範が発展してきたという平和主義者の主張に反映されている。

この議論は極端に走りがちである。政治学者のマイケル・ムソーは、5世紀にわたる自由市場規範と価値観にコミットした市場志向国家の世界の進化は、戦争の傾向をゼロにすることで「おそらく永続的な世界平和に行き着く」と示唆している。人間の進化において平和を正常な要素と主張する人々のうち、ここまで言い切る人はほとんどいません。

"比較的"平和な人類の過去という概念の主要な提唱者である人類学者のダグラス・フライは、ミードに同調し、「戦争は、かつての奴隷制度と同様に、廃止できる」と主張している。彼は、国際問題の法的・制度的な統治をさらに発展させ、紛争がエスカレートする前に制御することを提唱している。「私たちは、保安官と裁判官を地球規模の『ワイルドウェスト』に連れてくるという課題に直面している」。

これは、これまで人類が回避してきた課題である。人間が行き着く先は平和であるという多くの議論の問題点は、戦争の原因の探求にある。戦争がなぜ起こるのかを適切に理解すれば、すべての癌の最終的な治療法を見つけるように、戦争を根絶できるという仮定(思い込み)は、戦争があまりにも多様で歴史的に広範囲に及んでいるため、単一の、あるいは一般的な治療法で治癒することはできないという明白な反論にさらされる。

保安官と裁判官でさえ、銃を突きつけてワイルドウェストを鎮める必要があった。

マーガレット・ミード、マイケル・ムソー、ダグラス・フライの3人の学者が出てきますが、どれも「人間にとって平和こそ正常」派の具体例として登場します。

それを冒頭最後に、「人間が行き着く先は平和であるという多くの議論の問題点」と述べながら否定する流れになっています。

なお、冒頭のno more than = onlyで解釈してください。いわゆるクジラ構文とは異なります。

また、(2)空所補充は「a challenge that has eluded humankind」 (人類が回避してきた課題)となります。

語彙

  • aberration: (名) 逸脱、異常。
  • pre-state humans: 国家以前の人類
  • pacifist: (名) 平和主義者。
  • culminate: (動) 最終的に~に達する、~で終わる。名詞形なら「最高到達点」た「集大成」
  • propensity: (名) 傾向、性向。例: the propensity for war (戦争の傾向)
  • advocate: (名) 提唱者、支持者。
  • eluded: (動) (うまく)避ける、逃れる。
  • prevailing: (形) 支配的な、一般的な。
  • tame: (動) 鎮める、手なずける。

第3段落:戦争こそが正常

第2段落で「人間にとって平和の方が異常」と主張したので、第3段落では「人間にとって戦争が正常」であるという主張を展開し、その歴史的証明を述べて説得しています。

War, as Kenneth Waltz claimed, is normal, for historians no more than for students of the other human sciences. 'Normal' in the sense that it is not an aberration, but an integral part of the long human story.~~~~

ケネス・ワルツが主張したように、歴史家にとっても、他の人文科学を学ぶ者にとっても、戦争は歴史家にとって、他の人間科学の研究者にとって、「正常」な状態である。つまり、戦争は異常事態ではなく、、長い人類の歴史物語において不可欠な一部であるという意味である。

さらに、大小を問わず、集団的暴力行為を決定する状況がどうであれ、戦争は世界のあらゆる地域で、また社会的・政治的組織の多様な変化を通じて行われてきており、戦争一般の原因には根本的な説明があることを示唆している。そうでなければ、人間の共同体は異なる行動様式を選択しただろう。

人間、主に男性は、長い進化の過程において、同種を大量に殺害し、性別や年齢に関係なく、計算された残虐性をもって暴力を加える唯一の動物種である。これは、数千年前の人間にも当てはまり、21世紀の最初の四半期を特徴づけている野蛮な紛争にも当てはまる。男性、特に現代の男性は、他人を殺すことを嫌悪するという主張に対して、第二次世界大戦では、さまざまな社会からきた1億人の男性に対し、しばしば短期間の訓練の後、爆弾、砲弾、銃剣で同種の仲間を何百万人も殺害させることができたという反証がある。

語彙

  • integral: (形) 不可欠な、完全な
  • manifold: (形) 多様な、多くの。
  • collective violence: 集団的暴力
  • dictate: (動) 決定する、指図する。
  • irrespective of: ~に関係なく。
  • savage conflicts: 野蛮な紛争
  • aversion: (名) 嫌悪、反感。
  • cross section: (名) 断面、縮図、多様性。
  • spells of training: 訓練期間
  • bomb, shell, shoot, and bayonet: 爆撃、砲撃、射撃、銃剣突撃

第4段落:人間が戦争をする遺伝と環境説

第3段落主張した「人間にとって戦争が正常」を証明するために、人間にある暴力性を説明しています。

言い換えると、「なぜ人間は暴力に訴えるのか?」という問いに対して、本能≒遺伝と文化≒環境の両面から説明しています。

なお第4段落は今年読みにくい段落の一つなので、丁寧に復習してください!

There are several levels of explanation for the exceptional violence displayed by humans. The first level comprises the general causes, internal and external, that have affected human evolution. That humans have adapted biologically to engage in violence when necessary to preserve the gene pool and secure reproductive success now seems likely to be the first building block in explaining intraspecific conflict.~~~

人間が示す並外れた暴力を説明するためには、いくつかの階層が存在します。

第一の階層は、人間の進化に影響を与えてきた内的・外的な一般的要因から成り立っている。必要なときには暴力を行使して遺伝子プールを維持し、繁殖の成功を確保するように人間が生物学的に適応してきたことは、いまや人間同士(同種間)紛争を説明する上で最初の構成要素である可能性が高いです。

この見方によれば、戦争は私たちの「遺伝子に組み込まれている」のではなく、「遺伝子のために」存在しています。人間は本能だけでなく意識的に行動するため、必要に応じて戦うという生物学的な命令は、「人間の世界を『彼ら』と『私たち』に分ける」心理的進化によってさらに強化され、種内での殺害を正当化すると同時に、特に男性にとって、集団的な暴力を社会的責任として受け入れる心理的な傾向を生み出しました。

古代の人類社会が言語や象徴文化を発展させるにつれて、戦争にさらなる意味を持たせることが可能となったのです。戦争は、宇宙観にもとづく信念や、必要不可欠で価値あるものと見なす文化として捉えられるようになりました。

長い人類史の大部分において、文化と生物学の共進化は、自然(先天的な要素)と育成(後天的な要素)のどちらか一方ではなく、遺伝と環境の両方によって、必要あるいは有利と見なされた場合に、暴力に訴えることを強化する条件を作り出してきたのです。

設問4にもなっている「but for our genes(私たちの遺伝子のために)」という部分は、戦争が結果的に遺伝子の繁栄や生存に役立つ可能性があることを意味しています。つまり、戦争が個人や集団の生存競争の中で、より優位な遺伝子を残すための手段として機能することがあるという進化論的な視点を示していると考えられます。

語彙

  • intraspecific conflict: 種内紛争
  • on this reading: この解釈では
  • imperative: (名) 命令、必要性。(形) 必須の、命令的な。
  • predisposition: (名) 素因、傾向。
  • archaic: (形) 古代の、古風な。
  • invest A with B: AにBを与える、AにBの意味を持たせる。
  • nature and nurture: 自然と育成 (遺伝と環境)
  • resort to violence: 暴力に訴える
  • advantageous: (形) 有利な

第5段落:人間が戦争をする4つの動機

第4段落が人間の性質という一般論によって暴力の原因を考えてるのに対し、第5段落ではもう少し具体的な説明を試みています。ここで、資源、信念、権力、安全保障という四つの動機で登場します。

  • 安全保障: 脅威からの防衛主張した「人間にとって戦争が正常」を証明するために、人間にある暴力性を説明しています。
  • 資源: 土地、食料、鉱物などの獲得
  • 信念: 宗教、イデオロギーなどの擁護
  • 権力: 他者への支配、影響力の拡大

The second level of explanation moves from the general context for warfare to specific motives to act. Human beings acted and act within the broad parameters already outlined, but they do so from conscious motives.~~~

戦争を説明する第二の段階は、戦争の一般的な背景から、行為の具体的な動機へと移行します。人間は、すでに概説した広範な枠組みの中で行動してきましたが、それは意識的な動機に基づいています。これらの動機は、資源、信念、権力、安全保障という四つの項目に大別できます。

これらの動機は相互に排他的ではありません。例えば、権力の追求は安全保障の強化にもつながり、同時に追加的な資源をもたらす可能性もあります。信念のための戦争は、十字軍の例が示すように、一時的に資源上の優位性をもたらし、同時に信仰の安全性を高めることもあります。しかし、ほとんどの場合において、古代から現代までの戦争において、特定の紛争の背後にある主要な動機を特定することが可能です。

また、アレクサンダー大王やナポレオンのような野心的な個人が、戦争の推進力となることもあります。これは、戦争のより広範な枠組みや一般的な動機の範囲には組み込みにくい、ユニークで予測不可能な原因です。

これらの動機は、一般的な要因のレベルと同様に、歴史的に偶発的なものではなく、普遍的なものです。安全保障の探求、権力の追求、他者の資源に対する貪欲さ、信仰やイデオロギーのための戦争は、人間の状態に組み込まれています。これらの目的は、もちろん戦争以外の手段でも達成できますが、それらが妨げられたり、解決困難であったり、文化的に規定されたりする場合、それらを確保するための暴力という選択肢が残ります。それは、遊牧民が帝政中国の国境を侵略する場合であれ、今日のウクライナにおけるロシア軍であれ、同様です。

語彙

  • mutually exclusive :相互に排他的、二つ以上の事柄が同時に成立しないこと。
  • parameters: パラメーター/枠組み、ここでは、戦争を説明する上での一般的な条件や範囲を指します。
  • principal motive :主要な動機
  • integrate :統合する、まとめる、一体化する。
  • historically contingent :歴史的に偶発的な、歴史の特定の状況や出来事によって左右されること。
  • obstructed: 妨げられた、邪魔された、妨害された。
  • intractable : 解決困難な、手に負えない、解決が難しい。
  • culturally dictated :文化的に規定された
  • nomads: 遊牧民
  • raiding :侵略 襲撃、略奪。

第6段落:戦争の理解する普遍因果と個別具体

第4~5段落で説明したのことをまとめています。抽象的な文なので注意して復習してください。

ここで言いたいことは、戦争を説明するには単一の要因ではなく、歴史を通じて一貫して存在する「自然的な不可避性」と「人間の選択や行動」という複数の要因が絡み合っていることを理解しなければならない、という点です。

具体的には:

  • 戦争には時代や事例ごとの違いはあるものの、人類の歴史全体で共通する要因(たとえば、生存や資源を求める必要性、権力争いなど)がある。
  • しかし、それだけで説明できるわけではなく、人間がその時々でどう決断し、行動したかも大きく影響している。
  • だから、戦争を単純に「〇〇だから起こる」と説明するのは不十分である。
  • アザール・ガットが指摘した「戦争に至る因果の連鎖」は、どの戦争にも存在する普遍的なものだが、個々の戦争はそれぞれの物語と関係者によって成り立っており、歴史家はその複雑さを解き明かす必要がある。

要するに、戦争を理解するには普遍的な因果関係と、その時々の具体的な背景や人々の行動の両方を考慮しなければならない、ということです。

Warfare viewed through the two levels of explanation, the general context framing the specific motives, can be understood as a mixture of imperatives that have remained remarkably constant over human history, though the mix can vary from case to case.~~~

二つのレベルの説明、つまり特定の動機を形成する一般的な文脈を通して戦争を捉えると、戦争は、人間史を通じて驚くほど不変であった、いくつかの不可避な要素の混合として理解することができます。ただし、その混合の割合(組み合わせ)は事例ごとに異なります。自然的な不可避性と人間の主体性が連動して戦争を形作ってきた複雑な過程は、戦争を単純に説明できるという考えを捨てることを意味します。

アザール・ガットが「戦争につながる因果関係の連鎖」と呼んだものが依然として存在します。これは、すべての戦争には独自の物語と行為者が存在するため、歴史家にとって研究の余地を残しますが、「なぜ戦争は起こるのか?」という質問に対する一般的な答えのレベルでは、この因果関係の繋がりは普遍的に適用できます。

語彙

  • imperative: 必要不可欠なもの、命令的要請
  • tandem: タンデム/二人乗り
  • in tandem: 同時に、連動して
  • agency: 主体性
  • causal array: 因果の配列(出来事を引き起こす一連の要因)
  • narrative: 物語、語り
  • nexus: 結びつき、関連性
  • applicability: 適用性、妥当性

第7段落:未来の戦争予測は難しい

長々と述べていますが、

「戦争が人類の歴史から本当に消えるのかどうかは依然として不透明であり、未来の戦争予測は極めて困難。」

「戦争は終わるかもしれないし、終わらないかもしれない。いずれにせよ、未来の戦争を正確に予測することは極めて難しい。」

といったことを述べてます。

All discussion of the causes of war begs the question of whether war is likely to remain on the human history. There has been much discussion of the obsolescence of war or of war in decline.~~~

戦争の原因についてのあらゆる議論は、戦争が今後も人類の課題に残り続けるのかという問いを避けて通れない。戦争が時代遅れになったのか、あるいは戦争が減少しているのかについては、多くの議論がなされてきた。

大国間で再び戦争が起こることはないだろうという考えは、1990~91年のソビエト圏崩壊以降、戦略論において広く共有されてきたが、1914年以前、そして第二次「三十年戦争」の始まりの時点で、すでに同じような議論は存在していた。将来の戦争に関する予測は、予測につきもののあらゆる欠点に悩まされる。特に、中国の台頭とアメリカの不安定さが生み出した不確実性は、差し迫った紛争を警告する「カッサンドラ」たちの波を引き起こしているからである。

2013年に発表された、2050年までの地域・国家ごとの戦争予測を行う統計プロジェクトは、国家間よりも国家内での紛争が今世紀半ばまでに約50%減少することを示していた。例えば、タンザニアは2030年に21%の確率で紛争が起こると非常に正確に予測されていた。しかし、紛争の減少を推測するために用いられた指標が乳児死亡率の低下や教育の進歩であることを考えると、ノストラダムスに頼った方がまだましなのかもしれない。

最近の研究では、今世紀における大国間戦争では「奇襲」が重要な要素になると示唆されており、それは「予測不可能なものを予測しようとする」という難問を伴うとしても、歴史的に見ればはるかに説得力がある。

語彙

  • begs the question :論理的に避けて通れない問いを提起する、議論の前提となるべき事柄を曖昧にしたまま議論を進めること。ここでは、「戦争の原因を議論する前に、そもそも戦争が今後も起こるのか」という根本的な疑問を提起しています。
  • obsolescence: 廃れつつあること、時代遅れになること
  • bloc: (国家などの)勢力圏、ブロック
  • collapse of the Soviet bloc :ソ連崩壊、1991年にソビエト連邦が解体されたこと。
  • Cassandras: (ギリシャ神話の予言者カッサンドラから)不吉な未来を予言し、警告を発する人たち。ギリシア神話のトロイアの王女で、予言能力を持つが、その予言を誰も信じてもらえなかった悲劇の人物。
  • impending : 今にも起こりそうな、差し迫った。
  • element of surprise: 奇襲の要素、不意打ち
  • conundrum: 難問、謎

第8段落:未来のサイバー戦争と宇宙戦争

未来の戦争の新たな形態として、サイバー戦と宇宙戦の重要性を強調しています。

要約すると「未来の戦争はサイバー空間や宇宙といった新しい領域での戦いが重要になり、各国がそのための準備を進めている」といった趣旨になります。

Aside from the divided opinion of whether a power clash between China and the United States is inevitable, there are other forms of 'future warfare' that have attracted a good deal of popular attention.~~~

中国とアメリカの間で勢力衝突が避けられないかどうかについては意見が分かれているが、そうした議論とは別に、「未来の戦争」の形として多くの関心を集めているものがある。

その一つがサイバー戦争であり、これは敵対国や競争相手のコンピュータネットワークを意図的かつ攻撃的に妨害しようとする試みである。これまでのところ、このような攻撃を実行したのはロシアだけであり、2007年のエストニア、2008年のジョージア、そして2022~2023年のウクライナがその標的となった。サイバー攻撃は軍事ネットワークだけでなく民間のネットワークにも向けられ、日常生活や軍事通信、軍事能力をも脅かす可能性がある。アメリカ政府はこの脅威を極めて深刻に受け止め、バラク・オバマ大統領は2009年にデジタル・インフラを「国家の戦略的資産」と宣言した。翌年、アメリカ戦略軍はコンピュータネットワークの防御と攻撃を担う部門として「米サイバー軍(USCYBERCOM)」を設立した。その後、アメリカは「スタックスネット」と呼ばれるコンピュータウイルスを使用し、イランの核開発計画に損害を与えた。サイバー戦争は、直接的な死者を生むことはないものの、今後の世紀においては、主要国の軍事兵器体系の中でますます重要な位置を占めることが予想されている。

同じことは宇宙戦争の脅威についても言えるだろう。1970年代以来、宇宙は武器のない「聖域」であるべきだという国際的な合意があったが、近年、ますます多くの国が衛星を軌道上に打ち上げ、敵対国の衛星を破壊したり、機能を無力化したりする技術を開発するにつれ、その合意は徐々に揺らいでいる。実際、中国は過去10年間に行った対衛星演習でこの能力を示してきた。衛星通信は軍事的にも極めて重要であるため、宇宙空間での戦闘にどう対抗するかについて懸念が高まっている。こうした背景から、アメリカは2017年に「米宇宙軍司令部」と「米宇宙軍」を設立し、サイバー軍と同様に、対衛星攻撃能力と衛星防衛技術の開発を担う任務を与えたのである。

語彙

  • aside from: 〜とは別に、〜を除いて
  • undermine: 弱体化させる、損なう
  • strategic national asset: 戦略的国家資産、国家の戦略的資産
  • USCYBERCOM: 米サイバー軍(United States Cyber Command)
  • antisatellite: 対衛星(衛星を攻撃・無力化するための技術)
  • sanctuary: 聖域、安全地帯
  • blinding: (衛星などの)目をくらませる、機能を妨害する
  • armoury: 兵器庫

第9段落:未来のサイバー戦争と宇宙戦争

戦争はこの先も続くと主張しています。

もう少し言葉を足すと、

「戦争の形は変化するかもしれないが、戦争そのものがなくなることはない。その理由は、戦争の原因が歴史的に普遍的であり、現在の国際情勢も戦争の可能性を示唆しているからである。」

「戦争は未来でもなくならない。歴史的にも戦争の原因は一貫して存在し続けており、現代の紛争や今後の環境・資源・宗教問題を考えても、戦争はこれからも続く現実である」

といった趣旨になります。

Warfare will evidently change during the coming century but between whom and from what motives is unpredictable. The wars so far this century confirm the causal nexus.~~~

戦争は今後の世紀の間に確実に変化するだろうが、誰の間で、どのような動機によって起こるのかは予測不可能である。今世紀これまでに起きた戦争は、戦争の原因が複雑に絡み合っていることを裏付けている。戦争が自然に消滅していくという考えは、2000年以降に発生した数々の紛争や、今後数十年で予想される環境危機、資源不足、宗教対立といった要因を考えると、到底相容れない。これらは、歴史上何度も戦争を引き起こしてきた典型的な原因である。現在や将来の国際秩序から戦争のない世界が生まれると考える根拠はほとんどない。戦争の原因は何千年にもわたり変わらず存在してきた。

ロシアのウクライナ侵攻をめぐって大国が潜在的な対立の姿勢を示していることは、その一例である。地上で対峙する重武装の敵対勢力や、西側諸国による代理戦争、さらには定期的に発せられる核によるエスカレーションの脅威を目の当たりにして、戦争が過去のものになると信じられる人はいないだろう。戦争には非常に長い人類の歴史があると同時に、その未来もまた存在しているのである。

語彙

  • unpredictable: 予測不可能な
  • causal nexus: 因果関係の絡み合い、戦争の原因が複雑に結びついていること
  • reconcile: 両立させる、調和させる
  • crop of conflicts: 一連の紛争、短期間に次々と発生した紛争
  • resource stress: 資源の逼迫、資源不足
  • pedigree: 系譜、歴史的背景
  • scant grounds: わずかな根拠、ほとんどない理由
  • posturing: (対立などへの)構えを見せる、姿勢を取る
  • proxy war: 代理戦争、直接戦わず他国や勢力を通じて争う戦争
  • nuclear escalation: 核兵器を用いた戦争の拡大
  • iterations: 繰り返し、反復

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