慶應文学部2023年英語:解答解説と全文和訳 / 語学アプリは学びと言えるか

慶應義塾大学文学部の2023年入試の英語について、解説例と訳例を掲載していきます。

あくまで例であることをご了承ください。

文学部2023合格最低点

文学部の合格最低点は205点

得点率にすると58.6%でした。

英語の受験者平均点も2022年と比較して10点近く下がったので、その意味でも難化と言えそうです。

慶應義塾大学ガイドブック2024 より

全体講評

  • 題名:Fifty Sounds (50音)
  • 著者:ポリー・バートン / Polly Barton (2021)
  • 語数:2,200字程度

例年通り大問は1つだけ。合計2,200字程度の長文でした。設問の英文まで含めると、文学部は慶應の中では英文量の少ない学部です。

出典はポリー・バートン著「Fifty Sounds」。タイトルが「五十音」となっている通り、日本語について書かれたエッセイ本です。

出題英文は、大意は取れるものの、細かい部分で読み取りの難しい表現が多くありました。読解量自体は少ないものの、難易度は高く、解答を作るのに苦労した受験生も多かったと思われます。

2023年の出題英文について

Polly Bartonの『Fifty Sounds(フィフティ・サウンズ)』は、著者が日本での生活を通じて日本語を学び、言語や文化、自己との関係を模索する体験を綴ったエッセイ集です。

Bartonは、「日本語の音」に焦点を当て、日本語を学ぶことがどのようにして自分のアイデンティティや世界観を変えたかを独特な視点で描いています。

「50の音」からなる章立て

本書では、うだうだ、うかうか、ぺらぺら、ぽかぽか、モテモテ、きらきら、といった日本語の擬声、擬態、オノマトペが各章のタイトルになっており、それぞれの音に関連する体験や考察が綴られています。

たとえば「カ」「ワ」「ニャ」などの音を通じて、日本語の独特な表現や文化的な意味合い、そして彼女がそれらを理解しようとする過程が描かれています。これにより、日本語が単なる言語ではなく、文化的・心理的な意味をもつ「音の世界」であることが強調され、Bartonが言葉を超えた「音」として日本語に触れている様子が印象的に伝わります。

実際に出題されたのは、本書の前書き部分です。

外国語学習アプリ「Duolingo」の経験から、言語学習とは何かの話が始まります。

言語とアイデンティティの関係

Bartonは日本語を学ぶ過程で、自分のアイデンティティが揺れ動き、新しい視点が生まれる体験を何度も味わいます。日本語という異なる言語を通して、彼女は自身の人格や思考が変化し、新たな「自己」と向き合うことになるのです

たとえば、日本語の「空気を読む」文化に直面するエピソードでは、英国出身の彼女が感じる違和感や葛藤がユーモラスかつ繊細に描かれています。これにより、言語が単に伝達手段としての役割を超え、社会の根本的な価値観や慣習に深く関わっていることが浮き彫りになります。

日本語を学ぶ過程には大変な孤独感が伴いますが、その中でBartonは数々の発見も得ます。彼女は、日本語を学ぶことで生まれる困難を「自己発見の道」として捉え、そこにある「居心地の悪さ」を積極的に受け入れています。このように「不完全な理解」や「混乱」を通して、自分の価値観を問い直す場面も多く、日本語を学ぶことが彼女にとって自己成長の手段となっていることが伝わります。

各パラグラフ要約

各パラグラフをざっくりまとめると、以下の通りです。

*内容の都合上、13~21段落は一つにまとめました。

  • Duolingoのマスコットが「ねぇ知ってる?アメリカでは、Duolingoで言語を学んでいる人の数は、アメリカの公立学校全体で外国語を学んでいる人の数よりも多いんだよ!」と言っている。
  • Duolingはアメリカで生まれた言語学習アプリで、世界中で3億人にユーザーが使っている。
  • Duolingが「ねぇ知ってる?アメリカでは、Duolingoで言語を学んでいる人の数は、アメリカの公立学校全体で外国語を学んでいる人の数よりも多いんだよ!」と言うたびに、私は嫌な気持ちになる。
  • Duolingの一定の有用性やシステムは認めます。でも、それは言語学習のスタート地点にしか過ぎないのです。
  • 「学習」という言葉は、非常に広い意味で使われていますが、Duolingの言っている「学習」とは全然違う学びがあるのです。
  • 幼少期に経験したような「没入法」の学びがあり、それはDuolingoのように楽しいものではありません。苦悩や葛藤があり、自分の尊厳を賭けるような学び方です。
  • 私はこの「没入法」の学びを日本で経験しました。わかっていたら日本に行くのを躊躇するほどの経験で、だからこそDuolingoの発言にイライラしているのです。
  • 没入法の学びには、明確な目標などなく、学べば学ぶほど無意味なことに思えてくるのです。
  • 基本を学ぼうと思っても、とんでもない量の基本がやってきます。
  • 話し言葉の基本をマスターしても、その後に書き言葉の基本がやってきます。3つの文字の使う日本語はこの基本事項に事欠きません。
  • 先週フクロウの漢字を思い出せないことがありました。
  • そのことで落ち込んでいたら、日本語を学び始めて2年ぐらいに、ロンドンの日系出版社で働いていた時のことを思い出しました。
  • *13~21段落:先輩先輩社員の0さんから、漢字の使い方について、厳しく指導してもらった経験談。
  • 22段落:日本語の翻訳家として、私の自信は常に揺らいでいます。私がしっかりとした学位を得ていたら、日本語についてもっと自信を持てていたかもしれませんが、少しの違いだと思います。
  • 23段落:言語を教わるのではなく自ら学ぶためには、恥をかき、怒りを覚え、興味を持ち、全身で体験することが大事です。その結果、少しずつやるべきことがわかってくるのです。
慶應専門塾GOKOについて

解答例

【解答例】

問1:下線部(1)が意味するところを、30字以内の日本語で説明しなさい。

語学アプリのデュオと会うたびに、筆者には少し不快感が残った。(30字)

問2:(2)に入るもっとも適切な語を下から選び、記号で答えなさい。

D

問3:下線部(3)を、this word の内容を明らかにしつつ、日本語に訳しなさい。

理不尽と言ったのは、この「学習」という言葉が、様々な本気度によってなされるあらゆる範囲の活動を適切に言い表していることを認めるからである。

問4:下線部(4)が意味するところを、50字以内の日本語で説明しなさい。

言語没入法を知っていれば日本に来なかっただろうし、今は知っているので、なおさら自慢したりはしない。(49字)

問5:(5)に入るもっとも適切な語を下から選び、記号で答えなさい。

問6:下線部(6)を日本語に訳しなさい。

つまり、自分の足元をすくい、いかに日本語を知らないかということを実感させる基本事項には事欠かないのです。

問7:下線部(7)を日本語に訳しなさい。

「ポリーちゃん」と言いながら、彼は私の横に椅子を引き寄せ、ぐるになっているようにも教師然とも取れる眼差しで私の方を見た。「話をしよう、君の漢字の使い方は滅茶苦茶だ。」

問8:著者が下線部(8)のように感じるのはなぜか。言語習得についての著者の思いや議論を踏まえながら、その理由を100字以上120字以内の日本語で説明しなさい。

筆者にとって語学学習は、アプリの問題に答えれば上達するようなものではなく、不完全な理解のまま無防備に挑戦し続けることである。「問」を思わず間違えて「門」と書いてしまったように、日本語の「理解の門」と筆者の関係は、常に不安定なものである。(118字)

問9:次の日本語を、なるべく自然な英語に訳しなさい。

「私たちは、これまでの経験とは著しく異なる言語環境にドーンとぶつかることで、ときに打ちのめされそうになるだろう。」

The sensory bombardment of a linguistic environment radically different from what we've experienced before can occasionally threaten to bring us to our knees. (*公式解答)

We can sometimes feel overwhelmed when we encounter a language environment radically different from anything we've experienced before.(*最終段落の表現の一部を使用)

We will sometimes feel overwhelmed when we encounter a language environment that is totally different from our previous experience.(*現実的な解答例)

プチ解説

問1

問1:下線部(1)"each run-in with it leaves me feeling a little unclean."が意味するところを、30字以内の日本語で説明しなさい。

まずは意味が不明瞭な部分を除いて、わかる範囲で訳をつくってみる。

動詞はleaveなので「leave O C」(OをCの状態にする)が文の骨格だろうとアタリはつける。

itとrun-inするたびに、私は a little unclean な気持ちになる

それ以降の思考の流れは以下の通り

  • itは同段落に出てくる、デュオか(デュオが発言する)トリビアの2択だろう。
  • rui-in の意味は「ケンカ」「揉め事」。(知らなくても、各熟語帳に載っている"run into~"から「偶然出会う」的な意味かな...?と推測する)
  • rui-in の意味から、トリビアではなく、擬人的キャラクターのデュオを採用する。
  • uncleanは字面だけ追うと「不潔」になるが、「少し不潔な気分」だと意味が通らないので「少し不快な気分」ぐらいにする。

以上をまとめると以下の通り。

デュオとやりあうたびに、私は少し不快な気持ちになる

これでそれらしい解答にはなるが、和訳ではなく説明問題なので字数と文面を整える。

  • 「やりあう」としたが、実際にアプリのキャラとコミュニケーションが発生するわけではない。事実ベースで考えると、「出会う」もしくは「学習アプリを使う」ぐらいのニュアンスになる。itの説明も入れたいので、文字数の観点で前者を採用。
  • 私→筆者に変更する
  • 筆者の回想の話なので過去形にする。

以上を踏まえて以下を解答とする。

語学アプリのデュオと出くわすたび、筆者に少し不快感が残った。(30字)

問2

問2:(2)に入るもっとも適切な語を下から選び、記号で答えなさい。

確実にわかりそうな範囲で、下線部を含む英文を解釈すると、概ね以下の通りになる。

As the fact (I am spending my lunchtimes with Duo) reveals,

I am not entirely [ 2 ] its methods,

and I don't find the comparison(drawn between public-school language education and the Duolingo model) outrageous,

at least prima facie.

(私がランチタイムをDuoと過ごしている)事実からわかるように、

私はそのメソッドに全く[ 2 ] というわけではない、

そして、(公立学校の語学教育 と Duolingoのモデルの間にdrawされた)比較がoutrageous だとも思わない、

少なくとも prima facie では。

後半の find O C のCが、過去分詞(=形容詞としてふるまう)のdrawnか、形容詞のoutrageousで迷うかもしれないが、drawnだとするとoutrageousの居場所がなくなってしまう。

そのため、後半の文の骨格は

I don't find the comparison outrageous 「その比較を とんでもない とは思わない」

とする。

冒頭の「Duoを使っている」発言からも察することができるが、「Duoに全面的に反対しているわけではない」という流れなので。[ 2 ]に入るのはネガティブな単語である。

選択肢を見ると、 (A)と(C)はポジティブな単語なので選択肢から消す。

(B)の場合、「私はそのメソッドに完全に[ 混乱している ] わけではない」

(D)の場合、「私はそのメソッドに完全に[ 懐疑的 ]という わけではない」

となる。

前後の文で、Duolingoに対し一定の効果を認めているの。そのため(D)を採用する。「混乱」と「懐疑」でどちらか「認める」の反対に近いかと考えると、「懐疑」の方がより近い。

厳密な反意語とはいえないかもしれないが、以下のような例文を考えれば反対のニュアンスをもつことがわかる。

「部下の功績を疑う

「部下の功績を認める

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段落ごとの内容解説

ここからは、内容解説として、段落ごとの全訳と注目語彙を紹介します。

第1段落

【英文】

It's my lunch break and I'm being serenaded by a lime-green owl. 'Did you know!' the owl calls as it swaggers jauntily across my line of sight, 'There are more people learning languages on Duolingo in the US than there are people learning foreign languages in the entire US public school system!'

【日本語訳例】

昼休み、私はライムグリーン色のフクロウから声をかけられています。「アメリカでは、Duolingoで言語を学んでいる人の数は、アメリカの公立学校全体で外国語を学んでいる人の数よりも多いんだ!」と。

第2段落

【第1文】

The year is 2019, and I will soon be travelling to Italy for the summer, which is why I have found myself being taught Italian vocabulary and grammar, along with a variety of trivia, by this digital apparition, the mascot of the language-learning app Duolingo. I learned of Duolingo's existence only recently, but it transpires to be phenomenally popular, offering courses in 23 languages to 300 million users worldwide. Initially, there seems to me something faintly Japanese about the wing-gestures made by the mascot, Duo, but I check and discover that the company originated in the States, as I suppose I should have guessed from the trivia-nugget above; it's the brainchild of Luis von Ahn and Severin Hacker, born out of the idea that 'free education will really change the world'.

【日本語訳例】

2019年、夏休みにイタリアを旅行することになったので、語学学習アプリ「Duolingo」のマスコットであるこのデジタルのフクロウに、イタリア語の単語や文法、そして様々なトリビアを教えてもらっています。

私がDuolingoの存在を知ったのはつい最近ですが、全世界で3億人のユーザーに23言語のコースを提供する、驚異的な人気アプリであることがわかりました。当初、マスコットのデュオの翼のジェスチャーに日本的なものを感じましたが、調べてみると、上記のトリビア(*第1段落の「アメリカでは、Duolingoで言語を学んでいる人の数は、アメリカの公立学校全体で外国語を学んでいる人の数よりも多いんだ!」という情報)から推測の通り、この会社はアメリカ発祥で、ルイス・フォン・アンとセヴリン・ハッカーの「無償の教育が真に世界を変える」という考えから生まれたものであることがわかりました。

【単語】

transpires:知られるようになる、明らかになる

phenomenally:並外れて

第3段落

【英文】

Duo's screech is unvoiced but it sticks in my head nonetheless, whooping and half-demented, Disney-villainesque: Did you know! Did you know! Did you know! And no, as it happens, I didn't know. At least the first time big- eyed big-eyelashed Duo addressed me, I didn't know. By the tenth time it pops up on my screen I've begun to feel very familiar with this particular bit of trivia, and I also know something else: each run-in with it leaves me feeling a little unclean, in a way I can't really account for.

【日本語訳例】

マスコットであるデュオからのトリビアに音声はありませんが、それでも、ディズニーの悪役のように狂った「ねぇ知ってる?ねぇ知ってる?ねぇ知ってる?」という叫び声が、私の頭には残っています。そして、いや、たまたま、私は知りませんでした。少なくとも、大きな目のデュオが私に話しかけてきた最初の時は、私は知りませんでした。このトリビアが画面に現れる10回目には、私はこの特別なトリビアをとても身近に感じるようになり、さらに他のことにも気がつきました。このデュオのトリビアに出会うたび、私は言いようのない不快感に襲われるのです。

第4段落

【英文】

As the fact I am spending my lunchtimes with Duo reveals, I am not entirely sceptical of its methods, and I don't find the comparison drawn between public-school language education and the Duolingo model outrageous, at least prima facie. Unlike a lot of language-focused applications, Duolingo is not devoid of audio content; it has clips of real people talking, and invites its users to speak phrases into the microphone, so they are at least interacting with how the language actually sounds, and feels in the mouth. While its level-unlocking structure drawn from the world of gaming means that users might be focusing on strategies to pass rather than to truly master, the same accusation could be levelled at language education in schools: there is, in short, a lot of hoop-jumping. You learn the language the way that the exam boards or the green owl want you to, but it is, at least, a start. If it makes language education accessible and enjoyable to those who might not otherwise have access to it, then that is surely a good thing.

【日本語訳例】

私がランチタイムをDuoと過ごしていることからわかるように、私はDuolingoに全く懐疑的というわけではありません。公立学校の語学教育とDuolingoのモデルを比較することは、少なくとも一次的には無茶なことだとも思いません。

多くの言語に焦点を当てたアプリケーションとは異なり、Duolingoは音声コンテンツがないわけではありません。実際に話している人のように発音の省略があり、マイクに向かってフレーズを話すようにユーザーを導きます。そのため、少なくともその言語が実際にどのように聞こえ、口を動かすのか感じることができます。ゲームのようにレベルアップしていく構造は、ユーザーが真に言語を習得するためではなく、ゲームクリアのための戦略を重視していることを意味しますが、同じ非難は学校の言語教育にも言えそうです。要するに、クリアすべきたくさんの障壁があるのです。

試験委員会やDuoが望む方法で学ぶのはいいのですが、少なくとも、それは言語学習のスタート地点にしか過ぎません。もしそれが、そうでもしなければ言語教育を受けることができない人たちにとって、言語教育を身近で楽しいものにするならば、それはきっと良いことなのでしょう。

第5段落

【英文】

So why, then, does Duo's factoid bring me such a sense of unease, and why do I begrudge his hooting pride? It dawns on me that the source of my discomfort resides, utterly unreasonably, with his use of the word 'learning'. I say unreasonably, because I recognize that this word is used legitimately to cover a whole range of activities undertaken with varying degrees of intensity. The generous, rational part of me can see there is no cause to bar people from calling their five or twenty minutes a day on Duolingo 'learning a language'. But even as I have this thought, another part of me stamps its foot resentfully, the kind of foot-stamp that ends up hurting the stamper, and declares that the world has turned its eyes from what is real and true. This part wants to say its piece. It wants wider recognition that there is another, far less stable form of learning-a radium to Duolingo's lurid neon.

【日本語訳例】

ではなぜ、Duoの発言は私に違和感を与え、フクロウのプライドを妬ましく思ってしますのでしょうか。私の違和感の原因は、まったく理不尽にも、フクロウ発する「学ぶ」という言葉の使い方にあるようでした。

理不尽と言ったのは、この言葉が、様々な強度で行われるあらゆる学習活動を内包するのに合法的に使われていることを私が認識しているからです。私の寛大で理性的な部分は、Duolingoに1日5分や20分触れることを「言語学習」と呼ぶことを禁止する理由がないことを理解しています。しかし、そんなふうに考えたとしても、私の別の部分は、憤慨して地団駄を踏んでいます。

地団駄を踏んだところで、結局は自分自身を傷つけ、世界は真実から目をそらしていると宣言しているだけです。でも言わせてください。はるかに不確かな、Duolingoとは全然違う、別の学びの形があるのです。

【単語】

factoid:事実のようなもの

begrudge:妬む、羨む

hoot:フクロウ

legitimately:正当に、合法的に

bar 人 from Ving:人がVするのを妨げる(keepやpreventと同じ用法)

liven:生き生きさせる

第6段落

【英文】

The language learning I want to talk about is a sensory bombardment. It is a possession, a bedevilment, a physical takeover; it is streams of sounds pouring in and striking off scattershot associations in a manner so chaotic and out of control that you are taken by the desire to block your ears-except that even when you do block your ears, your head remains an echo chamber. The language learning that fascinates me is not livening your commute and scoring a dopamine hit with another '5 in a row! Way to go!' Rather, it is never getting it right, hating yourself for never getting it right, staking your self-worth on getting it right next time. It is getting it right and feeling as if your entire existence has been validated. It is the kind of learning that makes you think: this is what I must have experienced in infancy except I have forgotten it, and at times it occurs to you that you have forgotten it not just because you were too young when it happened but because there is something so utterly destabilizing about the experience that we as dignified, shame-fearing humans are destined to repress it. It is a learning that doesn't know goals or boundaries, and which is commonly known as 'immersive'. The image that springs to mind is a lone figure wading gallantly into the sea, naked, without a single swimming lesson behind them.

【日本語訳例】

私が話したい言語学習は、感覚的な爆撃です。それは、憑依であり、苦悩であり、身体の乗っ取りなのです。音の流れが押し寄せ、散発的な連想を引き起こし、耳を塞ぎたくて塞いでも頭の中で鳴り続けるほど、無秩序で制御不能な状態に陥るのです。私を魅了する言語学習は、通勤時間を楽しくすることでも、「5問連続正解!その調子!」とドーパミン出させたりもしません。

むしろ、決してうまくいかず、できない自分を憎み、次は上手くできるように、自分の尊厳を賭けるのです。うまくできると、自分の存在意義が認められたような気持ちになります。このような学習は、忘れてしまったことを除けば、幼少期に経験したに違いない、と思わせる学習方法です。忘れてしまったのは、その学習をしたのが幼すぎたというだけでなく、その経験にはまったく不安定なものがあり、威厳と恥を恐れる人間である私たちは、それを抑圧するように運命づけられているからだ、なんてふと考えるでしょう。

それは、目標や境目のない学習であり、一般に「没入法」と呼ばれるものです。イメージとしては、水泳の授業など一度も受けず、裸のまま、一人颯爽と海に入っていく感じです。

【単語】

bedevilment:苦悩させられること

immersive:没頭型の

wade into:苦労して進む、勢いよく取り掛かる

gallantly:勇敢に、堂々と

self-worth:自尊心

way to go:やったね、いいぞ、でかした

in a row:連続して

occur to:思い当たる

第7段落

【英文】

As you'll have inferred from my self-righteous tone, I speak from experience. 'Immersion' is exactly what I did when I went to Japan, although probably it's more correct to say that immersion is what happened to me. If I'd known what I was getting myself into before I went out there I may well not have had the nerve to go, and knowing this, I don't go around patting myself on the back for having done it. At least, I don't believe that I do, until I'm confronted with the pride of a green owl, and then I realize that there is some part of me that wants for this experience of mine to be recognized. Not only is this part not rational-it's furious with all the goal- driven rationality of the commute-friendly app.

【日本語訳例】

私の独善的な口調からご推察の通り、私は経験に基づいて話しています。日本に行ったとき、私はまさに「没入」したのですが、おそらく「没入」が私に起こったと言った方が正しいでしょう。もし、日本に行く前に自分に何が起こるのかわかっていたら、日本に行く勇気はなかったかもしれません。知っていたとして、行ったことで「よくやった」と自分を褒めるつもりもありません。少なくとも、Duoが自慢げに語る内容に出会い、自分の経験を認めてもらいたいと思う気持ちに気づくまでは、そんなふうには考えていませんでした。この気持ちは合理的でないばかりか、通勤に便利なアプリの目標達成のための合理性に対しても、猛烈に怒っているのです。

【単語】

self-righteous:独善的な、独りよがりの

pat on the back:褒める、称賛する、肩を軽く叩く

第8段落

【英文】

In particular, what I'm burning to tell Duo is the following: Did you know! When you immerse yourself in a very different language as a total beginner, not only do you not have goals! You also have no system within which to conceptualize what those objectives could be ― discounting, that is, overarching goals like 'learning to read', or 'becoming fluent', which themselves start to seem less and less meaningful the more you poke around beneath their smooth surfaces!

【日本語訳例】

特に、Duoに猛烈に伝えたいのは次のことです。知ってましたか?完全に初学者の状態で全く異なる言語に没頭するとき、目標がないだけじゃないんです!その言語習得の目標が何であるかを概念化することもできないのです。つまり、「読めるようになる」とか「流暢になる」といった包括的な目標を差し引いて、その滑らかな表面の下を覗けば覗くほど、どんどん無意味なことに思えてくるのです。

【単語】

discounting:差し引く、割り引く(ディスカウントセールのディスカウント)

overarching:アーチ状になっている、包括的な

第9段落

【英文】

Immersion in a foreign language is a bombardment of sounds, until you decide that you are going to actually do this thing and learn, and then it becomes a bombardment of imperatives: learn this, learn this, learn this. Just start from the basics, sings a voice in your head as you are tossed around in the waves of incomprehensibility. Yet as you continue to live in a language you don't know, it becomes increasingly obvious to you how much this category of 'basics' could theoretically encompass. Greetings and everyday interactions are of course basic, and there is always something embarrassing about not knowing basic forms of verbs. Everyone knows numbers are incredibly basic, as are colours, clothes, the subjects you study at school, animals, anything to do with weather, and adjectives for describing people. In fact, we could go ahead and say that every object is also basic, and there is something particularly alarming when you don't know how to say the first words you would have learned in your language(s) as a child: teddy, buggy, shoelace. And then there is the most fundamental-seeming vocabulary of all: abstract nouns, like justice, friendship, pleasure, evil, and vanity.

【日本語訳例】

外国語に没頭することは、音の砲撃であり、実際に行動して学ぼうと決めるまでは、「これを学べ、これを学べ、これを学べ」という高圧的な声が絶え間なく続きます。基本的からはじめればいい、理解不能なものの波に放り投げ出された時、そんな声が頭の中でします。

しかし、知らない言葉の中で生活を続けていると、この「基本」というカテゴリーが、理論的にはどれほどのものを含んでいるのか、だんだん分かってきます。挨拶や日常のやりとりはもちろん基本ですし、動詞の基本形を知らないと何かと恥ずかしいものです。数字が非常に基本的であることは誰もが知っています、同様に、色や服装、学校で習う科目、動物、天候に関すること、人を表現する形容詞なども基本的なことです。実際、すべてのモノが基本であるとも言えるでしょう。テディ、バギー、靴ひもなど、子供のころに習ったはずの単語を知らないというのは、特に心配なことです。そして、最も基本的と思われる語彙は、正義、友情、喜び、悪、虚栄心といった抽象名詞です。

【単語】

bombardment:爆撃、衝撃

imperative:高圧的な、命令的な、必要不可欠の

incomprehensibility:不可解、理解不能

encompass:まわりを取り囲む、含む、網羅する

anything to do with X:Xに関するあらゆること

shoelace:靴紐

慶應専門塾GOKOについて

第10段落

【英文】

If the language in question has a writing system different from that you know, then even mastering 'the basics' of the spoken language isn't enough, because a whole new category of basics awaits you in the form of the written one. In particular, Japanese is the gift that keeps on giving in this regard, having as it does three different scripts: two phonetic ones, katakana and hiragana (collectively known as kana), with forty-six characters apiece; and then the kanji, or characters of Chinese origin, 2,136 of which have been officially deemed 'in common usage'.  Which means, there is never any shortage of basics to trip you up and convince you of how little you know.

【日本語訳例】

もし、いま問題にしている言葉が、あなたが知っている言語と異なる文字体系を持つ言語だったら、話し言葉の「基本」をマスターするだけでは不十分で、文字という形で全く新しい「基本」があなたを待っています。

特に日本語は、3つの異なる文字を持っているため、この点に関してかなりお得な(注:皮肉)な言語です。カタカナとひらがな(総称して「かな」)はそれぞれ46文字で、中国由来の漢字には2,136文字の「常用漢字」があります。つまり、つまずき、自分がいかにモノを知らないかということを実感させる「基本」に事欠かないのです。

【単語】

in question:問題になっている

gift:才能、資質、お得なモノ、棚ぼた

trip up:つまずいてこと部、つまずかせる、揚げ足を取る

第11段落

【英文】

Last week (this is true), I had to look up a kanji that turned out to mean 'owl'. It wasn't entirely new to me; I'd learned it somewhere down the line and then forgotten it, but the experience still brought me to my knees with shame. Yes, it's not a commonly used character, but then I'm supposed to be a translator. I should know something as basic as 'owl'.

【日本語訳例】

先週(本当ですよ)、ある漢字を調べなければいけなかったのですが、それは「梟(フクロウ)」という意味だったのです。どこかで習ったような、忘れたような漢字だったのですが、それでも恥ずかしくて膝を打ちました。確かに、「梟」は日常ではあまり使われない漢字かもしれない、でも、私は翻訳者なのだ。翻訳者なんだから、「梟」くらいは知ってなきゃいけない。

【単語】

owl:フクロウ

第12段落

【英文】

As I sat staring down in despair at the owl kanji, wishing my self from two minutes ago had only managed to remember it, wondering how I could have failed to recognize a legless bird on a tree, I recalled without warning an incident from long ago, back when I'd been learning Japanese for little over two years and had just found a job at a small Japanese publishing company in London. One day I glanced up to see O, a senior employee, approaching my desk. In his hand were two of the slips that employees had to submit when requesting or reporting time off, and as he moved closer, I saw they were the ones I had recently filled in.

【日本語訳例】

2分前の自分がなんとか思い出せてさえいたら、どうしたら木の上の脚のない鳥を気づかないことができるのだろう、そんなふうに「梟」の漢字を見つめながら絶望に打ちひしがれていると、ふと昔の出来事を思い出しました。

それは、日本語を勉強し始めて2年ちょっと、ロンドンの小さな日本の出版社に就職したばかりの頃のことでした。ある日、私が顔を上げると、先輩のOさんが私のデスクに近づいてくるのが見えました。彼の手には、社員が休暇を申請したり報告したりするときに提出する用紙が2枚あり、彼が近づいてくると、それは私が最近記入したものであることがわかりました。

プチ解説:フクロウのことを「木の上の足のない鳥」と言っていますが、これは漢字「梟」が「木」と「鳥」を組み合わせたような漢字であることを言っています。

【単語】

glance up:ちらりと顔を上げる、目を上げる

slip:紙の一片、伝票、細い人

第13~20段落

【英文】

'Polly-chan,' he said, pulling up a chair beside me, looking at me in a way that managed to be both conspiratorial and didactic, 'Let's talk. Your kanji usage is all over the place.'

'Oh,' was all I had the wherewithal to reply. I felt simultaneously apprehensive about what was to come, and flattered that he was taking the time to school me individually.

'Sometimes you write them perfectly, and sometimes they're totally off.'

As he spoke, O's eyes drifted to my computer monitor, around whose edge I'd stuck up a number of kanji written out on small post-it notes. I remember that one of them was 'crow': the same as 'bird', but with the stroke symbolizing the eye missing. This had cropped up during one of the translations I'd been asked to do the previous week, and I hadn't known it.

'You don't need that,' O said, pointing at the crow. He began to hover his finger around the other post-its, informing me which I did and didn't need. Then, with hawk-like focus, his attention moved back to the offending slip.

'Look,' he said, his finger thumping the desk. 'Look what you've written here. This is missing a radical. You can't just miss parts of kanji like that, because then they mean something else entirely. You're trying to write "problem" and this says "mon".'

Maybe sensing that I was struggling a bit to keep up, he looked me right in the eye, and enunciated in English of a crispness that bordered on hostility, "Mon" means "gate". You've written "gate"."

I looked down to see that he was, of course, right. My slip read something that might be rendered in English: 'Unforeseen absence due to health gate.'

【日本語訳例】

「ポリーちゃん」と言いながら、彼は私の横に椅子を引き寄せ、ぐるになっているようにも教師然とも取れる雰囲気で私の方を見た。「話をしよう、君の漢字の使い方は滅茶苦茶だ。」

私は「Oh」と答えるのが精一杯でした。これから何が始まるのだろうという不安と、彼が時間を割いて個別に教えてくれることへの嬉しさが、同時にこみ上げてきました。

「完璧に書けるときもあれば、全然ダメなときもある」

話をしながらOさんの視線は私のパソコンのモニターに移りました。モニターの端には、小さな付箋に書かれた漢字がいくつも貼られていました。その一つに「烏」という漢字があったことを覚えています。「烏」は「鳥」と同じ漢字ですが、「目」を表す部分の一画抜けています。前の週に依頼された翻訳で出てきたのですが、私は知りませんでした。

「それはいらないよ」とOさんは「烏」を指しながらいいました。彼は他のポストイットに指を動かし、どれが必要でどれが必要でないかを私に伝えました。そして、鷹のような集中力で、再び問題の伝票に戻ってきました。

「見てごらん」指で机を叩きながら、彼は言いました。「ほら、君がここに書いたものを見てごらん。これは部首が抜けている。こんなふうに間違えちゃいけない、漢字の一部が欠けるだけでまったく別の意味になるんだ。君は「問」と書こうとしているのに、これは「門」になっている」。

私が少し苦戦しているのを察したのか、彼は私の目をじっと見て、敵意にも似た歯切れの良い英語で「『門』は『ゲート』のことだ。君は『ゲート』と書いたんだ」と言いました。

私は下を向いて、もちろんその通りだと思いました。私の申請書には、英語で言うと「Unforeseen absence due to health gate」(健康上の”門題“で予期せぬ欠勤)と書かれていたのです。

【単語】

conspiratorial:秘密めいた、いわくありげの

didactic:教育的な、説教くさい

apprehensive:気に掛けている、心配している

flatter:嬉しがらせる、お世辞をいう

crop up:不意に発生する、出現する

radical:語根、抜本的な、根本の

hover:浮かぶ、さまよう、うろつく(ホバリングのホヴァ)

offending:問題となっている、違反となる、不快にさせる

thump:強く叩く

enunciate:明瞭に発音する、述べる

crispness:パリッとした、歯切れの良い、シャキッとした(マッククリスプの「クリスプ」などで覚える)

第21段落

【英文】

Even ten years on, this episode feels as real and close as it ever did, and I can't resist the idea that, in some way, it still encapsulates my status in relation to Japan. To wit, I am always writing the gate. It's a huge, lofty gate of the kind found in temples; I stand by its posts, passing in and out momentarily, variously welcomed, frowned at, and ousted by its keepers. Even when I'm inside, I'm perpetually aware how quickly I could again be pushed out, that I could find some basic item inexplicably missing from my knowledge. Sometimes I ask myself if things would be different if I'd done my undergraduate degree in Japanese, or a proper language course, or a PhD-if I'd entrusted the responsibility for accumulating the basics to a system larger than myself in some way. The answer, I think, is slightly. I imagine I would feel at least slightly less liable to have the rug pulled from underneath me, to realize suddenly that I'm on the wrong side of the gate.

【日本語訳例】

10年経った今でも、このエピソードはリアルで身近に感じられ、ある意味、私の日本に対する立場が凝縮されているような気がしてならないのです。つまり、私はいつも門を書いているのです。それは寺院にあるような巨大で高尚な門で、私はその柱のそばに立ち、出たり入ったりして、守衛に歓迎されたり、眉をひそめられたり、追い出されたりと様々な目に遭います。

門の中にいても、またすぐに追い出されるかもしれません、自分の知識の中にどういうわけか欠けている基本事項があるかもしれない、そんなことを常に考えています。

もし私が日本語の学部を出ていたら、あるいはきちんとした語学コースに通っていたら、あるいは博士課程に進んでいたら、つまり、基本を積み重ねる責任を、何らかの形で自分よりも大きな仕組みに委ねていたら、状況は変わっていただろうかと自問することがあります。答えは、「少しは」だと思います。足元をすくわれて、突然、自分が門外漢であるような気分を味わうことは、少なくとも少しは減るのではないだろうか。

【単語】

encapsulate:カプセルに入れる、要約する

lofty:非常に高い、気高い、高尚な

oust:追い出す、立ち退かせる

frown:顔をしかめる、不快感を示す

momentarily:ほんの束の間

perpetually:永遠に、絶え間なく

inexplicably:どういうわけか、不可解にも

liable:責任がある

pull the rug out from under:足をすくう、支援を止める

第22段落

【英文】

For when learning takes a primarily autodidactic form, mastering something is dependent on noticing it, or having it pointed out to you. To the extent that you're not consulting other sources, obtaining an accurate view of the inventory of items to be learned is all down to exposure, and your ability to perceive that exposure, which is particularly relevant when we're speaking about aspects of language and culture radically different from anything we've experienced before. We can notice them, be outraged or intrigued by them, exoticize them, and therefore hoover them up, bump them to the top of our rota-or, else, we can fail to see them really, fail to appreciate them in their fullness. We are too busy thrashing around in the waves, gulping, spitting, and trying to stay afloat.

【日本語訳例】

学習が主に独学である場合、何かを習得するためには、それに気づいたり、指摘されたりすることが必要です。他の情報源に頼らない限り、学習すべき項目を正確に把握するためには、「晒される体験」と「晒される体験に対する認識能力」にかかっています。

このことは特に、これまで経験したことのないような言語や文化の側面について語るときに重要です。私たちはそれらに気づき、怒り、興味をそそられ、異国情緒に浸り、その結果、それらを収集し、やるべきことのトップに押し上げることができるのです。そうでなければ、それらを本当に見ることができず、その全容を理解することができません。私たちは、波にもまれ、息をのみ、唾を吐き、浮き上がろうとすることで精一杯なのです。

【単語】

autodidactic:独学の

exposure:晒されること、暴露

to the extent that:that以下の範囲において

rota:勤務表、業務表

thrash:のたうち回る

gulp:ゴクリと飲み込む

momentarily:ほんの束の間

perpetually:永遠に、絶え間なく

inexplicably:どういうわけか、不可解にも

liable:責任がある

pull the rug out from under:足をすくう、支援を止める

追記:2023年入試問題が掲載された赤本が発売されました。

詳細な解説がされていると思いますので、他年度も含めてぜひ紙面もご活用ください。

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GOKO編集室
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