【最難関大学英語】「 英語長文 読解の原点」レベル解説:刀禰泰史著のハイレベル参考書は慶應受験で使うべきか?
慶應の英語は受験界でも最難関レベルです。しかし、最難関だけに絞った英語長文問題集はそこまで多くありません。
そんな中、2024年7月に「最難関大 英語長文 読解の原点」が旺文社から出版されました。
この記事では、河合塾の人気講師、刀禰泰史先生著「最難関大 英語長文 読解の原点」のレベルや内容を紹介します。
「最難関大 英語長文 読解の原点」はどんな参考書?
収録されているのは、最難関大の過去問15題。
私立ではなく、国公立の記述問題の対策をメインとした問題集で、クセのない解説で万人にオススメできます。
約半分が東大と京大の問題ですが、要約問題や和訳問題を通して本質的な読解が学べるので、慶應や早稲田といった私大最難関の受験生にもオススメできます。
著者は刀禰泰史先生
著者は河合塾で東大・京大などのトップレベルコースを担当している刀禰泰史先生。
長年にわたり京大オープン模試の作成チーフを務め、模試作成にも深く関わっています。
本書以外では、2017年に英作文の参考書「 大学入試 ラストスパート英作文 珠玉の10題」も出しています、
こんな受験生におすすめ
- 東大、京大、一橋大、東工大、医学部など、最難関大を目指している
- 英語の長文読解はできるが、記述問題や和訳で点数が伸び悩んでいる
- 過去問を解いても、自己採点が難しく、自分の実力が把握できない
収録問題の出題大学とレベル
私立大学6題、国立大学から9題出題。
東京大学と京都大学が各3題ずつで、合わせて40%を占めています。
慶應からは薬学部と医学部の2題が出題されています。
出題大学
問題1 明治大学
問題2 早稲田大学
問題3 信州大学
問題4 島根大学
問題5 京都大学
問題6 東京大学
問題7 慶應義塾大学薬学部
問題8 上智大学
問題9 旭川医科大学(国立)
問題10 京都大学
問題11 東京大学
問題12 大阪医科大学(私立)
問題13 京都大学
問題14 東京大学
問題15 慶應義塾大学医学部
選択問題中心の私大の過去問であっても、「独自問題」として記述問題が追加されています。
同レベルの英語長文問題集
他の参考書と比べると、近いレベルはルールズ4、ぐんぐん読める英語長文ADVANCEDと同じようなレベルです。
関先生の参考書が合わない人には、特にオススメかもしれません。
最大の特徴は記述対策と詳細な採点基準
本書では、記述問題の解説に詳細な採点基準が明記されているのが最大の特徴です。
解答が「どの部分で何点もらえるのか」「どのような表現だと減点されるのか」が具体的にわかるため、自己採点の精度が格段に上がり、本番で求められる解答のポイントを正確に掴むことができます。
慶應志望受験生は使うべきか?
文学部と医学部が第一志望の受験生にはオススメできます。
慶應文学部と医学部は国公立型の記述問題となっており、+αの演習として最適です。自己採点ができる点もポイント高いです。
ただし、あくまで過去問演習が優先な点は忘れないでください。
文学部と医学部以外が第一志望の受験生は、よほど余裕がない限り手を出さなくて良いです。
概要は以上です。
ここからは収録されている問題について、さらに深掘りしてきます。
問題1:明治大学「バージニア葡萄大強奪事件」
原題:The Great Virginia Grape Heist - And other tales of agricultural banditry
仮邦題:『バージニア葡萄大強奪事件―農業界の盗賊たちの物語』
筆者:Rene Chun /レネ・チャン
1857年に創刊された、アメリカの老舗メディア「The Atlantic」の記事から出題。
第1問ということもあり、そこまで難しくは無いです(簡単でもないですが)。
2018年9月に、バージニア州の畑から約2.5トンの葡萄がすべて盗まれていることから話は始まります。
1万年前、人類が狩猟採集から定住し農耕を始めたことで、作物の可視化—「収穫物という資産」が扱えるようになった一方、被害(盗難)のリスクも生まれました。
日本でも時々、畑泥棒の問題が起きますが、その歴史の根深さを考えさせる文章です。
英文冒頭
Tuesday, September 11, 2018, was supposed to be harvest day for David Dunkenberger, a co-owner of Firefly Hill Vineyards, in Elliston, Virginia. He got to the fields early, eager to get this year’s grapes picked before the backwash of Hurricane Florence rolled in. As he scanned the vines, though, he began to feel queasy. His entire crop, about 2.5 tons of grapes, had vanished.
出典:https://www.theatlantic.com/magazine/archive/2018/12/grape-theft-vineyard/573910/
問題2:早稲田商学部2021「大人の外国語の学び方」
原題:Becoming Fluent: How Cognitive Science Can Help Adults Learn a Foreign Language
仮邦題:「流暢になる:認知科学が大人による外国語学習にどう役立つか」
筆者:Roberts, Richard M., and Roger J. Kreuz / リチャード・ロバーツ, ロジャー・クロイツ
出典:早稲田 商学部 2021 英語 大問2
これまで多くの大人の言語学習者を悩ませてきた「子供の方が言語習得に有利」という神話を打ち破ろうとする内容の本から出題。
著者であるリチャード・ロバーツとロジャー・クロイツは、心理学と認知科学の知見に基づき、「大人は子供のように学ぶのではなく、大人として学ぶべきだ」と提唱しています。
では、大人ならではの強みとは何でしょうか? 本書によると、子供が優位なのは、ネイティブのような発音を習得しやすい点と、学習に対する不安が少ないの2つ。
それに対し、大人は、
- 自身の思考プロセスを理解している
- 言語を使って物事を成し遂げる方法を知っている
- 言語の社会的用法を深く理解している
といった、生涯をかけて培ってきた膨大な知識とスキルを持っています。
これこそが、大人が外国語学習において圧倒的に有利になる武器といます。特に、言葉の社会的文脈を理解する「メタ言語能力」は、新しい言語を学ぶ上で強力な強みとなると指摘しています。
問題3:信州大学「芸術ってどうやって生まれるの?」
原題:Art and Reality
仮邦題:「芸術と現実:創造的なプロセスの探求」
筆者:Joyce Cary / ジョイス・ケアリー
作家ジョイス・ケアリーが「芸術ってどうやって生まれるのか?」や「アーティストって、世界をどう見て、どう作品にするのか?」という疑問について、自分の経験を交えながら語る本から出題。
「芸術家がどのようにして作品を生み出し、その作品を通して何を伝えようとしているのか」を、作家自身の視点からわかりやすく解説してくれる一冊です。
問題4:島根大学 2021「カブトガニの青い血があなたを救う」

原題:Why this crab's blood could save your life
仮邦題:カブトガニの「青い血」が医療を救う:知られざる貢献と保護への課題
筆者:Kieron Monks
出典:島根大学 2021年 大問3
米国の大手メディアCNNの記事から出題。
カブトガニの体内を流れる青い血液は、私たちの健康を守る上で極めて重要な役割を担っています。
この特殊な血液から作られるリムルス試薬(LAL試薬)が、医薬品や医療機器に有害な細菌の内毒素が混入していないかを検査するために不可欠というのです。
しかし、この貴重な血液を得るために、毎年多くのカブトガニが採血され、その一部は命を落としたり、繁殖能力に影響が出ています。
カブトガニの個体数減少が懸念される中、科学者たちはその代替となる合成試薬の開発を進めているようです。
英文冒頭
During World War Two, soldiers learned to fear treatment as much as enemy bullets. Unsanitary conditions and equipment in field hospitals made open wounds a breeding ground for bacteria that killed thousands, particularly the fast-acting and barely detectable gram-negative strains that caused toxic shock syndrome, meningitis, and typhoid.
出典:https://edition.cnn.com/2014/09/04/health/this-crabs-blood-could-save-your-life
参考までに、島根大の公式解答も掲載しておきます。
問題5:京都大学「ちょっ待てよ」
原題:Wait, What? And Life's Other Essential Questions
仮邦題:「ちょっと待って、どうゆこと?」から始まる人生を豊かにする5つの問い
筆者: James E. Ryan / ジェームズ・エドワード・ライアン
ハーバード大学教育大学院の前学部長であるジェームズ・ライアン氏が、大好評だった卒業式スピーチを元に書いた本が出典。
「正しい答え」を探すことにばかり気を取られがちな私たちに、「良い質問をすること」こそが、人生を豊かにする鍵だと教えてくれます。
書籍の核心となる、5つの質問がこちら、
- Wait, what?(ちょっと待って、どうゆこと?):相手の話をただ聞くのではなく、本当に理解できているかを確認する問いかけ。誤解を防ぎ、真の対話の始まりとなる。
- I wonder…?(〜だろうか?):好奇心と探究心を生み出す問い。物事の本質を深く考えるきっかけになる。
- Couldn't we at least…?(せめて〜はできないだろうか?):完璧な解決策がなくても、一歩前に進むための妥協点や最低限の行動を探る。
- How can I help?(どうすれば力になれますか?):助けを求めるだけでなく、他者に手を差し伸べることで、人間関係を深め、コミュニティに貢献するための問い。
- What truly matters?(本当に大切なことは何か?):日々の忙しさの中で見失いがちな、人生の目的や価値観を問い直すための、最も重要な問いかけ。
出題されたのは「How can I help?」の章でした。
この5つの質問、ぜひ試してみてください。
問題6:東京大学 要約問題
東大の要約問題ということで、問題6は2題の要約問題が出題されています。
A「フェイクニュースの正体」
原題:On Rumors: How Falsehoods Spread, Why We Believe Them, and What Can Be Done
仮邦題:なぜ、私たちは噂を信じてしまうのか?:社会心理学から読み解くフェイクニュースの正体
筆者:Cass R. Sunstein / キャス・サンスティーン
ハーバード大学ロースクールの教授であるキャス・R・サンスティーンが、「噂」がなぜ生まれ、どのように広がり、私たちがなぜそれを信じてしまうのかを、行動科学の視点から解説した本です。
ソーシャルメディアやインターネットが発達した現代において、虚偽の情報は瞬く間に広がり、社会に大きな影響を与えます。著者は、この現象を心理学や社会学の専門用語(ソーシャルカスケード、集団分極化など)を用いて分かりやすく説明しています。
なお、この手の話題は慶應法学部で特に頻出な印象です。
単に噂の危険性を指摘するだけでなく、以下のような問いに答えを提示しています。
- なぜ私たちは噂を信じてしまうのか?
- 噂に対抗するための有効な手段は何か?
- バランスの取れた情報や訂正記事は、なぜ必ずしも効果がないのか?
オバマ政権で実際に働いた経験から、噂が政治や社会に与える影響についても言及しており、現代社会を生きる上で欠かせない「情報の受け取り方」を再考させてくれる話です。
B「多世代交流が社会を救う」
原題: Building Communities for All Ages: Lessons Learned from an Intergenerational Community-building Initiative
仮邦題:みんなでつくる、私たちの街:世代間交流の成功事例に学ぶ
筆者:Nancy Henkin, Corita Brown / ナンシー・ヘンキン、コリータ・ブラウン
ハーバード大学で高齢化問題や世代間交流を研究するコリータ・ブラウンとナンシー・ヘンキンが、多世代コミュニティ構築の取り組み「Communities for All Ages」から得られた教訓をまとめた本から出題。
グローバルな高齢化と移民の増加が進む現代において、世代間の関係や資源分配はますます複雑になっています。こうした中で、本書は年齢、人種、民族を超えて「共有された運命」を育むことこそが、社会の課題を解決する鍵だと主張しています。
本書の要旨では、多世代交流がコミュニティ全体の「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」を育み、特に若い世代が高齢化問題に関心を持つきっかけになると指摘しています。
問題7:慶應大学 薬学部
原題:The Story of Pain From Prayer to Painkillers
仮邦題:痛みの物語:祈りから鎮痛剤まで
筆者:Joanna Bourke / ジョアンナ・バーク
英国の歴史家ジョアンナ・バークの著書から出題。
18世紀以降の西洋社会(特に英語圏)における痛みの概念と経験の変化を、文化史的な視点から詳細に探求した本です。
18~19世紀では、痛みは「神や自然からのメッセージ」「人格を磨く試練」として肯定的に捉えられていました。
一方で、20–21世紀には「戦うべき悪」として痛みを迅速に軽減することが追求されるようになり、その捉え方が根本的に変化したことが明らかにされます
結論として、痛みを単なる生理的な感覚としてではなく、社会・文化・言語・身体・環境との相互作用によって形成される「出来事」として捉えています。
著者ご本人の解説動画があったので、参考までに紹介します。
問題8:上智大学「七つの重要な色」

原題:Seven Deadly Colors: The Genius of Nature's Palette and How it Eluded Darwin
仮邦題:「生死を分ける七つの色―自然界の色彩の妙とダーウィンの見落とし」
筆者:Andrew Parker / アンドリュー・パーカー
「波長=色」を視点のキーとして自然界を読み解き、色彩がいかに生存競争に深く関わっているかを示した本から出題。
ダーウィンは「眼のような極めて複雑な器官が、段階的な自然選択で進化したとは信じがたい」と言ったそうですが、本書では、眼は完璧ではなく、その“不完全さ”こそが進化し色を巡る進化的“視覚戦争”を可能にしたと論じています。
なお、上智大学の過去問では点数は取れるような設計になっていますが、問題集では記述問題が追加されており、難易度が跳ね上がっています。
最後に、冒頭に登場する絵は、オルフェウス(吟遊詩人)が妻のエウリュディーチェを取り戻そうと冥界の入口前でリラを奏でる場面で、周囲に動物たちを魅了している様子が描かれています。
問題9:旭川医科大学「言語とDNAの共通点」
原題:The Evolution of Everything 〜 How New Ideas Emerge
仮邦題:進化は万能である 〜 絶え間なく変化する世界で生き残るための道筋
筆者:Matt Ridley / マット・リドレー
『繁栄』や『ゲノム』のニューヨーク・タイムズ・ベストセラー作家、マット・リドレーの著書から出題。
「世界は誰かの計画によって動いている」という考えに疑問を投げかけ、「進化」によってボトムアップで秩序が生まれるという壮大な視点を提供する一冊。
科学、経済、歴史など、あらゆる分野の事例を引用しながら、政府や権威によるトップダウンの指示ではなく、自律的な変化やパターンによって、世界が発展してきたことを論じ、インターネットや携帯電話でさえ、誰か一人の天才が設計したものではなく、無数の相互作用から自然に「創発」されたものだと主張しています。
英文は、「第5章 文化の進化」の中にある「言語の進化」から出題。
「言語と生物の進化は全然違う」という一般論に対して、いや「言語と生物の進化には共通点がたくさんある」主張した内容です。
問題10:京都大学 2016「神々の下に一つの国」
原題:One Nation, Under Gods: A New American History
仮邦題:もうひとつのアメリカ宗教史―多様な信仰がつくった国
筆者:Peter Manseau / ピーター・マンソー
出典:京都大学 2016年大問1
アメリカの作家・宗教史研究者ピーター・マンソーの本から出題。
アメリカという国が「一神の下に」ではなく、「多くの神々の下に」形成されてきたと主張する内容。
従来の「キリスト教中心史観」に疑問を投げかけ、モルモン教、ネイティブ・アメリカンの宗教、アフリカ系アメリカ人の信仰、さらにはニューエイジ運動など、主流から外れたとされてきた信仰の役割に光を当てた本。
「建国直後から存在していた信仰の多様性こそが、アメリカの真髄だ」って感じです。
ちなみに、登木先生の実況中継でも同じ問題が扱われていました。
問題11:東京大学 2019「雲好きが科学を動かす」
原題:The Amateur Cloud Society That (Sort Of) Rattled the Scientific Community
仮邦題:雲を愛した男たち:アマチュアが科学を変えた日
筆者:Jon Mooallem / ジョン・ムアレム
出典:東京大学 2019年 大問5
2003年、英国のグラフィックデザイナー、ギャヴィン・プレター=ピニーは、ローマで暮らしながら澄み切った空を見上げ、故郷の曇り空を懐かしく感じました。
そこから「雲は悪者扱いされがちだけれど、本当は美しい」という思いに駆られ、『Cloud Appreciation Society(雲を称える協会)』を設立します。
第1回の集会は大盛況で、わずか数か月で会員が2,000人に。メンバーは世界中から集まり、現在では6万人以上にまで拡大しています。
さらに、会員たちが撮影・報告した珍しい雲の形がきっかけで、「アスペリタス(Asperitas)」という新種が世界気象機関の公式分類に追加されるという快挙も達成。
といったお話です。
問題12:大阪医科大学 「心理学の権威が描いた"心"の全体像」
原題:The Principles of Psychology
仮邦題:心理学の諸原理
筆者:William James / ウィリアム・ジェームズ
古典心理学の大家、ウィリアム・ジェームズの著書から出題。
1890年、アメリカの哲学者・心理学者ウィリアム・ジェームズは、心理学史に残る大著『心理学原理』(The Principles of Psychology)を執筆しました。
12年の執筆期間を経て完成した全2巻・計1,400ページ超の本書は、心理学を科学として体系化した先駆的な著作であり、今なお人間理解の土台となっています。
ジェームズは、心を単なる静的な「器」ではなく、絶えず流れ続ける現象=「意識の流れ(stream of consciousness)」として捉え、感情や思考は状況や時間によって変化し続けるため、固定的に捉えるのではなく、その変動性を観察・理解することが重要だと説きました。
心理学について、抽象的な理論の暗記ではなく、「個人としての自己」を理解する営みであると主張していた人でもあります。
問題13:京都大学 2017「今を生きるには」
原題:EVERY TIME I FIND THE MEANING OF LIFE, THEY CHANGE IT: WISDOM OF THE GREAT PHILOSOPHERS ON HOW TO LIVE
仮邦題:人生の意味を見つけたと思ったら、また変わる―哲学者たちの生き方の知恵
筆者:Daniel Klein / ダニエル・クライン
出典:京都大学 2017年
出題京都大学2017年の英語。
ニューヨーク・タイムズのベストセラー作家であり、ユーモアを交えた哲学書で知られるダニエル・クラインの著書から出題。
大学時代に「生き方のヒントを集めよう」とノートに書き留めた哲学の“珠玉の一言”。それらを晩年の視座から読み返し、人生の深みや変容と重ね合わせて再解釈したのが本書です
出題は「今、この瞬間(here and now)」を生きることの難しさと説いた箇所から。
冒頭にある古代ローマ皇帝で哲学者でもあったマルクス・アウレリウスの言葉――
“Do every act of your life as though it were the very last act of your life.”
(人生のあらゆる行為を、最後の行為であるかのように行え)
――を起点に、人間の「現在回避」傾向を考えていきます。
この問題集の中で個人的に好きな英文No.1です。最高。
なぜ私たちは「今、ここ」に集中できないのか?
1. 過去と未来への逃避
私たちはつい、ノスタルジーや後悔といった「過去」や、不安・希望を抱く「未来」に思考を巡らせてしまいます。これにより、心は“現在”から離れてしまうのです。
2. 「準備」という名の逃避
たとえば夕食の準備、試験勉強、死後の世界への備え――こうした「準備」は一見まじめな行為に見えて、実は“今”から心を遠ざける方便になっていることがあるとクラインは指摘します。
3. 「実存的失望」への恐れ
私たちは「今に生きることが人生の本質」だと頭では理解していますが、いざ深く現在に没入すると、「これがすべてなの?」「何も特別ではない」といった空虚さに直面することがあります。この“実存的失望”を避けるために、心は自然と別の時間軸――過去・未来・想像――へと逃れていきます。
問題14:東京大学「ほんの一瞬のこと」
原題:This Will Only Take a Moment
仮邦題:ほんの一瞬のこと
筆者:Elin Hawkinson / エリン・ホーキンソン
アメリカの文芸誌「New England Review」に掲載された短編エッセイから出題。
日常の一場面を通して、人間関係の葛藤と「見えているはずのものを見ないふりする」心理を描いた作品です。
主人公は、別れるべきだと分かっていながら、なかなか関係を断ち切れない「ときどき会う彼氏」との間に葛藤を抱えています。彼女の人生は、何かが欠けているにもかかわらず、その状況から一歩を踏み出せずにいるかのようです。
一方、街中で出会った男性は、行方不明の娘を探すために必死にビラを配っています。彼の行動は、主人公や読者に対し、「目の前にある明白な不在」と向き合うことの重要性を無言で問いかけます。
作品の中で印象的に繰り返されるのは、
Sometimes it’s so hard to accept those things right in front of our faces.
「時には、目の前にあることを受け入れるのが、とても難しい」
というメッセージで、人間が不都合な真実から目を背けてしまう心理を、静かに描いています。
タイトルどおり「ほんのひと時で終わる」作品ながら、読後には長く余韻を残す一篇です。
英文冒頭
Have you ever been eating in a restaurant—just an ordinary café or dining room, surrounded by the bustle of waitresses, the buzz of conversation, and the smell of meat cooking on a grill—and when you take up the salt to sprinkle it over your eggs, you’re struck by the simple wonder of the shaker, filled to the brim by unseen hands, ready and awaiting your pleasure? For you, the shaker exists only for today. But in reality it’s there hour after hour, on the same table, refilled again and again.
The evidence is visible in the threads beneath the cap, worn down by repeated twisting—someone else’s labor, perhaps the girl with the pen and pad waiting patiently for you to choose a sorbet, the boy in an apron with a washrag and dirty sneakers, perhaps someone you’ll never in your life see. This shaker is work, embodied. And there you are, undoing it.
Elin Hawkinson「This Will Only Take a Moment」
ちなみに、神戸が舞台として登場しますが、著者が神戸で英語講師をしていたのは2013〜2014年で、働いていたのはCOCO塾だったようです。
問題15:慶應医学部 2022 「"社会の空気"が僕らを縛る?」
原題:To tackle anti-social behaviour we need stronger social norms and communities
仮邦題:反社会的行動が蔓延する社会に必要なのは、「もっと強い社会規範」と「自立したコミュニティ」
筆者:Nick Timothy / ニック・ティモシー
出典:慶應義塾大学医学部 2022年 英語 大問1
暴力やいじめ、迷惑行為、それらを目にしたとき、あなたは止めに入れるか?
英国の政治評論家ニック・ティモシーの記事から出題。「反社会的行動が増える背景には、社会の無関心がある」と警鐘を鳴らす内容。
ロンドンのスーパーで起きた凄惨な暴力事件を例に挙げ、なぜ多くの人が傍観者になってしまうのかを問い、原因は単に「怖いから」というだけでなく、もっと根深いところにあると指摘します。
「小さなルール違反を放置することで、大きな犯罪につながる」と、割れ窓理論と同じ理論を展開しつつ、ポイ捨て、騒音、落書き、そうした日常の迷惑行為を見逃さず、互いに声をかけ合うことが、より安全で健全な社会を作る第一歩だということです。
英文冒頭
Last month five thugs caused mayhem in a supermarket in south London. One punched and kicked a female staff member to the ground. Another smashed an object over a disabled customer’s head before punching and knocking him out of his wheelchair. One victim ended up in hospital.
As shocking as the violence was the realisation that many people had watched on as innocent, vulnerable people were attacked. At least one bystander recorded the incident on a smartphone. Nobody appears to have tried to intervene.
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